世間が浮かれ騒ぐ一大イベントたるクリスマスの前日。それがマリィの誕生日。 …だと、村雨が知ったのは、その当日だった。浜離宮から、如月家へ出向く途中のこと。 本日は「如月家に全員集合」の命が下されていたので。 それを、『クリスマスイブだからなァ』程度にしか、村雨は思っていなかった。 ちなみに、芙蓉は夕刻から既に向かっており、御門は…と言えば、用事を残す薫を手伝い、後から来る予定だった。 少女を一人出歩かせるほど愚かでもないので、マリィが、暗くなってから移動する時は、仲の良い村雨が、いつもボディガード兼話し相手に抜擢されている。 決して嫌な仕事ではないから―むしろ、嬉しい部類に入ると思われる―、村雨は、いつも快く応じていた。 そんないつもと変わらないかと思われた道中、今日この日に、あの当時知り合った仲間が一斉招集された”真の理由”を、今更ながらに知ったのだった。 「アノネ、今日はマリィのお誕生日ナノ!クリスマスイブにネ、生まれたノ!!」 はしゃぐマリィは、煌びやかに着飾った街並みのそこかしこを指し示し。 「マリィもウレシイし、ミンナもウレシソウだカラ、今日がマリィの誕生日でヨカッタ、ッテ思うノ!」 …しあわせに、しあわせに、微笑うのだった。 まるで、世界が自分を祝福してくれているようだから、嬉しいと。 そして。 自分が楽しいだけではなく、世界もまた楽しそうだから、嬉しいと。 嬉しくて嬉しくて…だからしあわせなのだ、と微笑う。 「シコウも、タノシイ?…ダッタラ、マリィはモットモットうれしくなるヨ!」 ドウ?タノシイ??と、見上げる蒼いあおい双眸は、期待できらきらと光っている。 この眼差しを、跳ね返したり無視したり出来る者が、仲間内に居たら知りたいもんだと、村雨は思う。 「そうだな。…勿論、俺も楽しいさ」 ぱあっと、いっそう表情の明るくなるマリィに、とても優しい声が、またひとつ降ってきた。 「…何たって、マリィが楽しそうだからな」 だから。マリィは、今日見せたどの笑顔よりも、幸せそうに微笑った。 「やさしい、ネ。シコウは、トッテモ…やさしいネ」 ---------------------- 「マリィと一緒に居る時は、祇孔は優しい顔をしているね」 其れは何時のことだったか。薫の警護が村雨だけの当番周りだった日のことだとは、記憶している。 「…じゃ、いつもはどうなんだ」 多少不機嫌な村雨を見て。 ―ええと。 困っているようだが、楽しげに薫は微笑い。 「つまらなそう!」 「はァ?……」 「つまりはね、あの子と居る時は、どんな時より祇孔は楽しそうなんだよ、ってこと」 ―ちょっと妬けちゃうなぁ…なんて。 笑い声と共に、そう呟かれたのも、覚えている。 ---------------------- マリィの言葉に、何やら思い出しているうちに、賑やかな街中を通り過ぎ、次第に閑静な住宅街へと。 仄かに香り、鼻腔をくすぐるのは、どこぞの家庭のチキンの匂いか。 ふと、見上げた空は、星が少ないながらも、ひっそり瞬いていた。 「なァ、マリィ」 夜の空から、自分の横へ目線を移す。 「ン?」 遥かに背が高い相手を見上げるのは、だいぶ辛いのだろうに、マリィはいつも懸命に見上げてくる。 なので、密かに悪いなと思っていたりしている村雨。 「…いや、まァ…その何だ。……誕生日、おめでとうさん」 けれど、目線を逸らすのは、もっと悪いなと思うので。 御門あたりが見たら、確実にイヤミの一つ二つ、いや三つ以上でも言われそうな、彼らの前では見せないであろう優しい顔で、そう言った。 「アリガトウッ!!」 言って、手袋を片方、急いで外すマリィは、何事かと見守る村雨に、その外気に晒された手を差し出した。 「…エット、手、つないで歩いてイイ?……ダメ?」 「悪かねェな?」 外套のポケットにしまいこんでいた手を出してやると、すぐに小さな白い手が滑り込んできた。 「アノネ、ウレシイカラ。ダレかと、手をつなぎたくなるノ」 ―それでネ、マリィのシアワセがシコウに伝わったら、モット、ウレシイ。 答える代わりに、ほんの少しだけ、つなぐ手に力を入れた。 …気をつけないと、痛がるだろうから。 -----Merry Birthday。 |
マリィは可愛く。村雨は優しく。を、目指してみたのですが。 <追記> ×---------------------------------------------× |
●モドル●