+++++++『I 'll try my luck』


 何故か村雨はおもちゃ屋(の店頭)に居た。

 …これほど似つかわしくない場所も無いだろうが、それでも実際問題として、村雨はそこに居た。

 何故か。

 「…シコウ?」

 「よォ、マリィ」

 「……ドウシテ、ココにいるノ?」

 「…さあなァ?」

 「モウッ!ふざけないでヨ」

 「…って言われてもなァ、何となく足が向いちまったんだ」

 「ナントナク?」

 「おぅ。…ま、其処にマリィが居たんだ、だから俺は此処に来たんだろ」

 「…???マリィがいたカラ、シコウは来たノ??」

 「きっとな」

 「…フゥン……?」

 わかったようなわからないような、小首を傾げて頷く様も愛らしい小さな少女。

 「あんまり深く考えんな、其れが俺なんだよ」

 我ながら無茶苦茶な論理だと村雨自身も思うのだが、其処はソレとして。

 「ン…ワカッタッ!!」

 「よし」


 二人が納得できればそれで問題は無いのだから。





 「んで?マリィは何で此処に居るんだ?…美里のヤツは居ないみたいだが」
 村雨の言う美里=保護者の意である。きょろきょろとマリィの周囲を見渡すも、其処に映るのは、
我が子と楽しそうに行き交う者だけで、マリィの保護者らしき大人が近づいて来る気配は無い。

 村雨が、自然な疑問をぶつければ、途端にマリィは沈んだ気配を見せ。

 「……誰も、いないヨ。今日はマリィが一人で来たんだモン」

 ふるふると、頭を左右に振り…金髪が揺れた。

 「はぁ?一人??何だってまた」
 此処は割と大きなおもちゃ屋であり、マリィのお小遣いで買えない額の物がほとんどである。
 なのに、何故一人で来ているのか。

 …何故、下を向いて、もごもごと喋るのか。

 「何でだ?」

 「……」

 「黙ってねェで、言えよ。でないと俺はわかんねェ。わかってやれねェ」

 「…葵オネーチャンとか、パパとか、ママとか…に言わない?」

 「言わねぇよ」

 ”絶対”だ。

 見上げる瞳をしっかり見つめて、言い切ってやる。

 「……メフィストは、ココで待ってるンダヨ??」
 確約を貰ったマリィは、メフィストを入り口近くの物陰に降ろし、その鼻先をちょんちょんと叩く。

 「…ジャァ、コッチ!」
 村雨をにっこり微笑って見上げ…スカートの裾を翻しながら、おもちゃ屋の店内へと。

 「……あんまり走るんじゃねェぞ」


 …苦笑まじりに呟く声は、僅かに届かず。






 マリィは、目指す場所へ急いているが、所詮は少女の足なので。
 ゆったりとした大幅な足取りの村雨が、その広い店内で見失うことは無く。

 「アノネ」

 ある一角を曲がってすぐ。そこで足を止めたマリィは、村雨が自分のすぐ隣に立ち並ぶまで待ち、
おもむろに、すっと伸ばす手で、上から数えたほうが早い棚の、とある品物を指した。

 おもちゃ屋に居る子供特有の、輝く瞳。

 …けれど其れはすぐに。


 「……アレがネ、アノネ、…アノネ」
 きゅっと口を引き結んで、そこで言葉は途切れ。伸ばされていた指は、手は、キラキラと輝いてい
た蒼い瞳は、元気を無くして。

 押し黙ったマリィと、棚の品物を見比べる村雨。

 「欲しいんだな?」

 「……」
 品物を凝視したまま、何も言わないマリィ。

 「…欲しくないのか?」

 「……」
 ぱ、っと村雨を見て、品物を見て。

 「……ァ…」
 何かを言おうとして、また黙って。

 「欲しくないのか?」

 「……ホシイ」
 小さいけれど、はっきりと。自分の欲を口に出したマリィは、けれども次に。

 「ウウン、チガウ。…チガウ」
 ―見てたダケ。指で、指したダケ。
 村雨の目を見ずに、ただ違うと。

 あのなぁ、と。溜息を一つ、吐き出す。

 「俺を誰だと思ってるんだ」

 「…?…シコウ」

 「だろ?」

 なら、遠慮は無しだぜ。

 にっと自信ありげに笑う村雨の手は、すでに棚の品物にかかっていて。

 「買ってやる」

 「…ェ?」

 「おら、レジに行くぞ」

 「シ、シコウ!?…Wait a moment!!!」

 急く足は、所詮は少女のものなので。

 足幅も広く、尚且つ足を運ぶスピードも先ほどより速い村雨のほうが早くレジに着いたのは言うま
でも無い。



 「…あ、プレゼント包装ってヤツで頼むな」
 レジの店員相手に会計を済ませながら、商品を包もうとしたもう一人の店員にそう告げる。

 「はい、かしこまりました」
 にっこり微笑ったその店員の手によって、品物はカラフルな包装紙とリボンとで包まれ、華やかな
シールが、ぺたりと仕上げに。

 「お待たせいたしました。…どうぞ」

 「サンキューな。……マリィ、行くぞ?」

 「ェ、ア・…ウンッ」

 目前で包装されるモノを、ただじっと見つめていたマリィは、村雨の呼びかけで、ようやく我に返っ
たのか、先に歩き出した村雨を慌てて追いかけた。

 店を出て。

 おとなしく待っていたメフィストを褒めて。

 そして。

 村雨の持つモノを、ただじっと見つめるマリィ。

 「…自分で持ちたいか?」

 「……ウン。持ちたい」

 「ほらよ」

 マリィがしっかりと抱えるのを確認してから、そっと手を放してやる。

 「…大丈夫か?」

 「だいじょうぶダヨッ!」

 其れは、荷物を持っているというより、荷物に乗っかられているといった印象を強く受けたが。

 「…そうか、落とすんじゃねェぞ?」

 「ウンッ!」

 必死に、大事に。一生懸命持って歩くマリィを見れば、とりあえずの注意しか言えないだろう。





 「シコウ」

 「あ?」

 「……thanks!」

 「なに、マリィが欲しいと思ったもんを買っただけだ」

 さらりと言い切った男に、目を丸くしたマリィは、それでも素直に思ったことを。

 「シコウは、スゴイネ?…マリィが、ホシイナって思うモノを、パッと買えちゃうンだモン」

 「…マリィが欲しがるもんなら、何だって買ってやれるぜ?」

 「……ウソ。シコウに買えないモノだって、きっとあるヨ!」

 「疑うなら、試してみればいいさ。…マリィが何か欲しいと思ったときは、俺を呼べばいい」

 ―すぐに買ってやるよ。

 「…ホント?ホントに??」

 「当たり前だろ」

 微笑うマリィは、きっと村雨の言うことを疑ってはいないのだろう。





ウンヲ タメシテミヨウ




ゼッタイ カナエテヤレルカラ


キット カナエテクレルカラ




『I 'll try my luck』




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オワリ。

<呉崎つかさサマ、サイト一周年おめでとうございます♪>

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拙い代物でしたが、コレをお祝いの品としてー!!

…ドコが祝いやねん、ってなモノですが(T_T)

つかささんが、村マリをお好きだと、言ってくださいましたので。

調子に乗ってみました。(乗りすぎ)



村マリ同盟に参加しているので、村マリは大好きなのですけど。(笑)

結構さくさく書けてしまうのですけど。

…犯罪とか言わないでください。涙。

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