---ソラノカケラ---

 空を見て、何ごとかを、マリィが呟いていた。

  それは、英語であったから。

  それは、小さな声であったから。

  つまりそれは、誰かに聞かせようとしたものでは、無かったから。

 皆には聞こえなかったのだろう。

 たまたま、そう、たまたま後ろに位置してしまっていた壬生以外は。

 マリィが発した短い英文。

 その中の、一単語。

 何の気無しに、さらりと頭の中で訳して、ふと…

 壬生は、それがとても気になった。

  声を、かけた。

 「…マリィ」

 ― 予想はしていたけれど。

  小さな体に震えが走るのは。

 「ナ、ニ…?」

  大きく見開かれた蒼い瞳が不安と畏れを映しているのは。

 それらは

 気分の良いものではないから。

 ―”いや、何でも。”そう言ってしまえば、楽になれるだろうな。

 マリィから逃げるのは、簡単だったけれども。

 だが、かろうじて踏みとどまり、壬生は訊いた。

 できるだけの、優しい声を作って。

 「…実は、その…聞こえてしまったから、気になって」

 「……聞こえちゃった…ノ?…じゃア、”ショーガナイ”、ネ。ナァニ??」

 「”shattered skies”…さっき、そう…言ったね」

 「…ウン」

 「空を見たから、”shattered skies”―”空の欠片”と言ったのかい?」

 「ウウン。見た…じゃなくッて。エット……”feel”?」

 「そう…か。空を、感じたんだね?」

 「ウン。…それでネ、あのネ、”ソラ”を見て、”ココロ”を感じたノ」

 ワカル?

 自分より遥かに背が高い壬生を必死に見上げて問いかける。

 「…ああ」

 「ヨカッタ!」

 しっかりと頷いてやれば、マリィは、ぱっと顔を輝かせ、笑顔を見せた。

 今まで、壬生の傍では決して見せなかった表情を、した。

 「”ソラ”は、大きくて広くて深くて、全部は視エナイノ。人のココロも、同

 じナノ。視エテル部分は、ホンの少し。だから、”ソラ”は”ココロ”」 

 …ワカル?

 先ほどより、若干躊躇いつつ、確認の意を取るから。

 わかるよ、と。

 壬生は、静かに、でもはっきりと口に出して。

 尚且つ、しっかりと頷いてやれば、マリィの蒼い瞳が満足げに笑んだ。

 「そうだね…全く、その通りだよ」

 ― 驚いた。

 素直に、目前の小さな少女を尊敬した。

 「あのネ!」

 「うん?」

 「”ソラノカケラ”は、”ソラ”に還ルノ」

 「ああ」

 「だから”人のココロ”も、”人”に還ルノ!」

 「ああ」

 「……だから、だからネ?」

 「…ああ」

 ゆっくりと待っていてあげるよ、と。

 焦らなくても良いのだ、と。

 そういった気持ちも伝えたくて、壬生はマリィが言葉を区切るたびに、

 実に丁寧に、相鎚を打った。

 それは、確かに伝わっていたのだろうけれども。

 「…チョットだけ、待ってくれる?」

 「勿論」

 それでも。遠慮がちにマリィは申し出るので。

 壬生は、”当たり前だ”と、ごく自然に返す。

 マリィは、ふーっと、小さく一息ついて。

 瞳を覆い隠した瞼が微かに震えているのは、緊張の為だろう。

 そして、すぅっと大きく空気を吸い込んで。 

 肩の子猫が、主人を励ますように、小さく、鳴いた。

 「あのネ…壬生が、コワクないって、…ワカッタヨ」

 「……それは、嬉しいね」

 先ほどとは、少し話の路線が違わないか?と引っかかりはしたが。

 言われていることはそんなこだわり以上のものであったので、考えない

 ことにした。

 「マリィ、もう壬生のコト、コワクないヨ?」

 「ああ、充分…わかったよ」

 「ウンッ」

 ― 陽を糸にして束ねたら、こうなのだろうか。

 壬生は

 零れんばかりに光を生み出す金の髪を見てそう思い

 ― …それに負けないね。

 その金の髪に縁取られた少女の顔を、綺麗だと思った。

 「エヘヘ」

 肩に乗せていた子猫を、両の手できゅうっと抱きしめ、マリィは嬉しそう

 に微笑い。

 ぎごちないものだったけれど、壬生も何とか微笑みらしきものを、返す。

 「…今、ネ」

 「……うん?」

 「マリィのココロは、壬生に還ったヨ。壬生のココロは、マリィに還ったヨ」

 シアワセの、デンセン!!

 言うが早いか、マリィは子猫で自らの顔を壬生から隠した。

 でも、子猫では、顔は隠し切れないから。

 黒からはみ出す部分は、白くはなく…ほんのり桜色。

 「……」

 哀しいかな。

 こういう時に、どう言えばいいのかが…

 わからない、壬生。

 「ニャぁ」

 仕方無しに見つめあう相手は

 黒い子猫。

 金の瞳は、何か言えとせっついているようにすら、見えた。

 「…君は、何ていう名前なんだい?」

 「メフィスト…」

 言うに事欠いて、猫に話し掛ける壬生紅葉。

 それに素直に反応するマリィ。

 「メフィスト、か。じゃあ…マリィに、その…”ありがとう”と伝えておいてく

 れないか?」

 「…ン」

 言うに事欠いて、猫に頼む壬生紅葉。

 しかもたった一言だけ。

 …何がどう”ありがとう”なのかも、謎。

 ああでも

 メフィストの後ろに隠れているマリィが、実に良い顔をしていたから

 期待以上に、壬生の伝えたかったものは、伝わったに違いない。




+++FIN


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ええと、PS2のゲームで、『エースコンバット4--shattered skies--』という
航空シミュレーションゲーム(でイイのかな?)が、あります。ちなみに、作者
はプレイしておりませんです。このゲームはストーリーモードだとステージの
合間合間にサブストーリーが入るのですが。そのサブストーリーズだけを見せ
られまして。で、最後に”ソラノカケラ”と副題の意味が出まして。……………

なんだかこう、くるモノがあったというか何というか。

いきなり壬生とマリィが頭の中で話し始めてくれちゃいましたというか。

そう、そんな感じ。(は?)

単語に感化されてしまったのですねー…きっと。サブストーリーズ自体は、
今回のお話にはあんまり影響を与えていないと思われますが、どうでしょう
…と、プレイした方にこっそり尋ねてみたり。作者にはわかりませんのよ。



経緯はともかく。マリィが絡むと、SSが一気にこういう雰囲気になってしまうらしく。

ただひとつハッキリとわかるのは、このページはムダに爽やか。眩しすぎ。それだけ(笑)。

【追記】
実を言うと。
当サイトの相互リンク先『ハナイロヒカリ』の管理人サマたる楓実サマがお好きだと言っていたカップリングでして。
それを小耳に挟んだ作者が(そういうことは一切言わずに)こっそりと書いたのですが。や、恥ずかしくて。(爆)
なのになのにー(笑)後日、ほろっと経緯を言ってしまったらば、お優しい楓実サマが貰ってくださると!!【喜】
うわーうわー、ホントにイイんですか?(笑)クーリングオフはいつでも受け付けてますですヨ。

そんなワケで。このSSはひっそりと楓実サマへ♪ありがとうございます♪【愛】

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