+++anniversary







 二人で買い物に行こうと。

 仲良く連れ立って新宿へ。



 「葵オネーチャン!!…”カイテンイッシュウネン”っテ、ナニ??」

 見れば、マリィの指差す先には、派手派手しい花輪が。

 最近、漢字の読み書きもだいぶ出来るようになってきたせいか、筆書きの行書体でも、簡単な漢字なら読めるようになったマリィ。

 たどたどしく読み上げ、美里を見上げ、答えを求める。

 「…ええと」

 戸惑ったのは、其処が未成年には相応しくない店であったからだが。

 「ナニ?」

 それでも、マリィは聞いてくる。まっすぐに。

 「お店が開いてから、一年経ちました…という意味よ」

 答えるだけよ、此処が何のお店なのか、なんて言わなければ良いんだわ。…己を納得させてから、美里は回答を示した。

 「フゥン…。ソレっテ、イイコト???だから、店員サンとか、ニコニコしてるノ?」

 「ええそう、良いことよ?一年続いたのだもの。絶えず続くことは、良いことね」

 ― 時に、続いてはならないことも、在るけれど。たいていは…続くことは、良いことよ。

 そう付け加えるのは忘れない。

 ソッカ。納得したマリィに、美里は微笑んで、けれどまた少し考えた。

 「……ああ、それから」

 「ソレカラ?」

 「”一年前のその日が、大切な日でした。だから、同じ日付の今日も、大切な日、記念日なのです。お祝いしましょう”」

 そういう大事な意味が、あるのよと。優しく付け加えた。

 「ミンナ、そういう日を持ってるノ?」

 「持っているわ。生まれたその日が、まず大切な日ですもの。…だから一つは、持っているわね?誕生日という記念日よ」

 命が世に出たその日。

 自分が、世界に認められたその日。

 だから自分も、その日を世界が始まった記念日と定めるのだ。

 そして、大切にする。



 「他ハ?」

 ウンッ。明るく頷いて、それから目を輝かせ、次を求める。

 「…他は、そうね、……大切な人と出逢った日、とても嬉しいことがあった日、…色々あるわ。マリィが、”忘れないように覚えておこう”、”いつまでも、この日を特別にしておきたい”そう思ったのなら、それがマリィにとっての記念日になるわね」

 「葵オネーチャンは、ドレくらいアル?」

 「在るわよ。それはもう、たくさん。ちゃあんと、覚えている…忘れられない色々な思い出。それらが生まれた日は、私にとっての記念日ね?」

 「…マリィも、イッパイイッパイ、アルヨ!!……イッパイありすぎて…ンット…ホトンド毎日が、記念日になっちゃう、カナ」

 「まあ、そうなの?」

 「ソウ!!ダッテ、マリィ…ミンナと逢って…ウレシイコト、タノシイコト、教えてもらったカラ。イッパイイッパイ、シアワセをもらったカラ」

 「ダカラ、お祝いシタイ日が、…イッパイ、アルヨッ!!」


 人は、祝う。

 常に何処かで何かを誰かが誰かのために自分のために。

 忘れているだけで、祝い事の無かった日などは、…本当は、無いのかもしれない。




 「うふふ、そうね?そう考えると、毎日が記念日になるわね。…素敵なことよ」

 「ウン!…ァ、デモ…ヤッパリ、”トクベツ”はモット、トクベツだヨネ!」

 「例えば?」

 普通に美里は聞いたはずだった。

 けれど、マリィはその白い頬をほんのり染めて、唇をきゅっと結んでしまった。

 「…マリィ?」

 訝しげな問いかけに、マリィは。

 「……ヒミツ」

 照れて、それだけを言った。

 「私にも?」

 「…ダレにも、ヒミツ」

 「残念ね?」

 うふふ、と微笑えば。

 他の誰かさんたちは物怖じするだろうが、マリィは違ったので。

 エヘヘ、と無邪気に微笑い返してきた。




 けれど、美里は諦めなかった。

 「マリィも、そういう感情を持つ年頃なのよね」

 ふう、と物憂げに溜息を。

 「????」

 いきなり何かと、マリィは黙って聞いている。

 「だって、そうでしょう?…秘密にしたい記念日になるのは…」

 そこで一旦区切りを付け、マリィの青い瞳を、ただただ見つめ。






 『大好きな人と、出逢えた日だからでしょう?』


 美里は、金髪の妹にそう言った。






 うふふ。

 また、微笑った。


 …その時の微笑みを、マリィはしばらく忘れられなかった。









 「ねぇ、誰なの?」

 「ひ、ヒミツだモン!!」




 それから暫く。

 美里家では、姉妹が寄り添えば必ず、そんな会話が交わされたのだった。



+++FIN




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テーマは記念日で。自サイト一周年記念にかこつけたものの、内容は関連性無し(笑)。

美里様って、一体何処まで知っているでしょうか。…完全に知ってしまったら、相手はどうなるのでしょうか。

ふ。(逃げ)

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