+++「花咲く頃に、逢いましょう。」



 ――ほなな〜!!

 ただでさえ細い目を一層細めて、笑顔で。

 けれど、最後の最後の挨拶は、背中越し。

 なんだかもう、とっても哀しくて、泣き出しそうだったさやかの顔を、見ないため?





 少し時は経って、花冷えのする3月下旬です。

 3月の25日は、大好きな劉弦月の誕生日です。

 でも、弦月は日本には居ないのです。

 さやかが中国へ行かないと、逢えないのです。

 其れがわかっているのに、お仕事を抜けられないさやかは、珍しくふくれています。

 勿論、あからさまに顔には出やしませんが、霧島諸羽にはバレバレです。

 だから、霧島は策を弄してみたのです。

 「ねえ、さやかちゃん」

 ――劉さん…お祝いしてあげたいのになー…。

 「さやかちゃん」

 ――はー。

 「これ」

 溜息を知らずつくほど、さやかは全然聞いていないけれど、其処は其れマイペース霧島は、ぱっと、さやかの目前に2枚の紙片を差し出しました。

 ぴかぴかの笑顔付きです。

 「…?……ぇっっ!?!!?」

 一気に現実に戻ってきました。

 無意識とは恐ろしく、両の手は、がっちりと紙片を掴んで離しません。

 その様子に、霧島はちょっと微笑って。

 「明日の撮影だけど、急遽繰り下げになったから。…で、急いで手配しておいたんだよ」

 何と、霧島が差し出したのは、往復の航空券でした。

 日本―中国間の。

 「…えぇと…、いらないかな?」

 そんなこと、さやかが言うとは思っていないのですが、もしいらないと言ったら『京一先輩を探す旅』に出ようとは思っていたので、念の為。

 「いるいるいるいるー!!!本当にいいの?霧島君っ!」

 二つ返事どころではなく、掴みかからんばかりの勢いです。

 あ。事実、霧島は上着を引っ張られて、少々首元が苦しそうです。

 さやかは、恋する乙女と化していたので”まったく”気付いていませんが。

 「う、うん。さやか…ちゃんが、よろこんでくれてっ…う、れしいよ…うぐ」

 …いえ、少々どころではなくて、かなり苦しそうです。

 それでも、笑顔を作る辺り、騎士の鏡(?)です!



 それはもう素早く、一路、さやかは機上の人となりました。

 肝心の弦月の居場所は、これまた霧島が身体を張ってミサちゃんに調べてもらっていましたので、バッチリです。

 周りのサポートと乙女の恋心があれば、中国の奥地だろうが、なんてコトは無いのです!

 実は、ひっそりこっそり中国語のお勉強をしていたさやかですからね!



 そうそう。

 さやかを見送った霧島の元に、電話がありました。

 何やら、大変焦っているようです。

 「ああ、霧島君!!」

 「はい!何でしょう、マネージャーさん」

 「さやかちゃん、知らないかい?携帯も繋がらないんだけど。明日の仕事の打ち合わせをしたいんだけどね…」

 「さあ…。僕も知りません」

 「困ったな…。さやかちゃんは、仕事をすっぽかすような子じゃないんだけど…」

 …霧島は、色んな人に嘘をつきましたが。

 それは見事な面の皮の厚さで、全てを乗り切ったのです。

 ……策士です。



 そんなこんなで、処は変わって中国福建省某所。

 ひっそりと立つ一軒の家があります。

 「はー、今日もおてんとさんが元気やねー、ぴよちゃん♪」

 畑の中でひよこと戯れる姿が、この上なくお似合いな劉弦月。

 「りゅうさーん!!!!!!!」

 「…いやぁ、イイお天気過ぎて、ワイ…おかしなったんかいな…」

 畑は家の裏手にあったりして、声は表側から聞こえます。

 「りゅうさんってばー!!!さやかですー!!!!!!!!!!!」

 「……さっきより近うなっとる気も…」

 ワザとではないのですが、ボケすぎです、弦月。

 ですが、其れもいたしかたありません。何故なら此処は、中国は福建省。

 さやかの声がして、さやかの氣を感じても、迂闊に信じてはイケマセン。

 …いけない、のかもしれませんが、反対に疑うわけにも行きません。

 寧ろ、期待でいっぱいです。

 なので、よじよじと器用に屋根に登り、こっそり見下ろしたらば、其処にさやかを発見した弦月です。

 ――うーわー…。ホンマモンのさやかはんやー…。

 いっこうに目の前に現れてくれない弦月に、ちょっとイライラし始めたさやかとは正反対に、弦月は、ほんわか笑顔です。

 「りゅーうーさーぁーんっ!!勝手にお邪魔しちゃいますよー!?」

 日本の一般家屋にはインターホンなどという便利なモノがありますが、此処にはありませんから、一生懸命さやかは叫ぶのです。

 でも、呼んでも呼んでも出て来ません。当の弦月は、ちょっと顔を上げれば視界に入るところには居るのですが。

 気付かないさやかとしては、別の手段を講じる気にもなるというものです。

 そう、さやかの十八番です!

 「……さやかっ、歌います!!」

 「なんでやねーん!」

 思わず突っ込んでしまった弦月は、即座に、恋する乙女に捕捉されました。


 じー…。

 ……じーっ…。

 暫く、お互い凝視。



 あっちゃー…と、頬を指で掻く弦月を見て。

 さやかは、それはもうしあわせそうに微笑いました。




 3月25日の弦月の誕生日は、さやか持参のクラッカーで、ささやかにお祝いです!

 


+++終。 

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劉さや。うわーい、マイナー!!(笑)

好きなのですよ、この二人の組み合わせが♪


弦月の誕生日にアップしたかったので、少々短くなってしまいましたが、

い、如何でしたでしょうか…。


恋する乙女を書くのは、大変楽しかったですvvv

…策士な霧島クンを書くのも楽しかったです。うふふ。
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