------Happy day





 「ネ、ヒスイ?」

 今日もやってきた特別なお客様は、帳簿を眺めていた如月の横にぴったりと張り付
いて、なにやら真剣な顔。

 「ん?」

 帳簿から目を放し、特別なお客様―マリィへと、視線を向ける如月をじっと見つめ。

 「エットネ、今、行きたい場所とか欲しいモノとか、何かナイ?」

 マリィの質問に、如月は少しだけ思案し、ややあって、笑いながら答えた。

 「……特別、無いよ」

 「アノネ、ホントに何でもイイノ。…ホントに何もナイ?」

 ふわふわと広がる髪を撫でてやりながら、一呼吸置いて。

 「…欲しいと思ったものは、すでに貰っているから」

 これ以上望むものは無いよと。それだけ言って微笑んで。

 「?」

 そんな如月をわからない、と言いたげに見つめるマリィに、ゆっくりと口を開く。

 「僕が、自然に笑っていられる”場所”も。僕が笑っていてほしいとおもう”誰か”も。
僕は、何処にあるか、何処に居るか、知っているからだね。…だから」

 ―特別、無いよ。

 「ム〜………」

 拗ねて軽く頬を膨らませるマリィを、目を眇めつつ、困ったね、と如月は苦笑し。

 考えて。

 「…あぁ、じゃあ一つだけお願いしても良いかな?」

 「ナニ?!マリィに、できるコト??」

 「できるよ」

 むしろ、マリィにしか出来ないね?微笑う如月を、何を言ってもらえるのだろうかと
蒼い瞳が期待を込めて見つめる。

 「僕のために何か…歌を。声楽部のマリィ・クレア・美里嬢に、是非歌って頂きたく」

 恭しい仕草で、マリィの片手をとり、そう”申し出る”如月。

 自分が出来ることだと、自信を持ったマリィの瞳は青く耀いて。

 「ウンッ!!マリィに任せて!!!!ヒスイのためだけのウタを歌ってアゲル!」

 「喜んで拝聴させていただくよ」

 …澄んだソプラノが醸し出すメロディーに、足元の子猫はそっとしっぽを振って。

 まるで其れはリズムをとるように、指揮をとるように。

 目前の微笑ましい光景に、やはりまた、如月は微笑ったのだった。





 「ありがとう、マリィ」

 歌い終えて、すっきりと満面の笑みのマリィに。

 「…エヘヘ。ドウイタシマシテ!」

 柔らかな笑顔の如月に。



 一言の、お礼のコトバ。



 暫く二人微笑いあった後、こほん、と可愛らしく咳払いをしたマリィが

 「…ヒスイ、HAPPY BIRTHDAY!!!」

 言うと同時に、足元のメフィストが行儀良く背筋を伸ばし、にぁ…と小さく、鳴いた。

 一人と一匹のお祝いに、口元をほころばせた如月は、ああそうだと、小さく呟き。

 「せっかく来てくれたんだ、お礼に…美味しいお茶菓子でも、どうだい?」

 「…イイノ?あ、デモ…ソレジャア、マリィのほうが”おもてなし”されちゃうヨ…??」

 今日は、ヒスイのbirthdayなのに。小首をかしげて、そう訊ねてくるマリィに。

 「それで、良いんだよ。マリィが幸せそうな顔をしていてくれたなら、僕も…」

 答えて、けれどそこで言葉を切ったのは、やはり少しの気恥ずかしさがあったから。

 「…僕も、幸せな顔をできるからね」

 「……OK!!」

 ぱっと顔を輝かせ、了承の意を示したマリィの頭をまた優しく撫でて。

 「それじゃあ、奥へどうぞ」








 自然に笑みが零れる場所があって

 微笑っていてほしい人が笑顔で




 そういう日は

 とても とても

 良き日



 ―今日も、如月家の茶の間で、満足げに猫が鳴いた。


+++Fin

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急いで書いたので短いのしか出来ませんでした。撃沈。

…如マリのようなそうじゃないような。どうなんだか。

でもでも、如月さんの誕生日おめでとうございますの気持ちだけは強くあるのですよぅ。

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