「………」
茶の間で、優雅に招き猫磨きをしようとしていた如月の目の前には、何とも珍妙な生き物が鎮座ましましていた。
その、白い…二本足で立つ……猫?は、やたらともじもじと身体をくねらせ、恥ずかしそうにしている。
「…………」
招き猫を置いておいて、茶を入れに行き、そして戻ってきたら…招き猫は消え、代わりに居たのが、この…。
「えと…よ、よろしくにゃのニャ……。うにゃ…はずかしいのニャ。こトロ…ここのうちのこに、にゃりに来たのニャ♪」
キャーっと言う文字が浮かび上がらんばかりの勢いで、両手をパタパタとペンギンのように振って、照れている…。
「…で、僕にどうしろと?…それよりも、ここにあった招き猫を知らないかい?」
―頭痛がする…。
軽く溜息をつきつつ、愛しの招き猫の所在を明かさんと、問い質す如月。
「…ふにゃ……うにゃ…ひすい、こトロのコト、キライにゃの?…キライにゃの??…う、う…うにゃぁあぁぁぁんッッッッ」
体全体で泣き出すこねこに、如月の心がずきりと痛んだ。良心の呵責というものだけではないのだが、今の如月は、それに気が付いてはいない。
「え、あ、い、いや…その…すまない、少し言い方が悪かった…」
如月の謝罪の言葉に、まだ身体を震わせつつも、か細い声で語りかけてきた。
「…うにゃ…ひっく、ホントにゃの…?こトロのこと、キライじゃにゃい?…ホントにホントにゃの?…ひっく」
またもや、如月の心がずきりと痛む。しかし、まだ如月は気付いてはいなかった。
―…どうしたんだ、僕は。こんな得体の知れない子猫に、どうして心を煩わされているんだ?…そうか、このこねこは邪妖だ、そうに違い無いッ!!
と思い込むが早いか、懐に忍ばせておいた玄武に手を伸ばす如月…ってちょおっと待て。貴方、いつも懐に忍ばせているわけですか?
―当たり前だろう、いついかなる時に、僕が愛しく慈しむと決めた、招き猫と麻弥の身に不貞の輩の影が寄るか、わかったものではないのだからね…。……?誰に言っているんだ?…ますます、このこねこが妖しい……。フッ…僕の前に現れたことを悔やむがいい…。
そう言って、一度作者によって止められた手を、再び動かす。如月の手が、玄武に触れようとした、正にその時!!
「じゃあ……じゃあね、翡翠は、こトロのこと、好きにゃの?…こトロは、翡翠のことダイスキにゃのニャ♪…うにゃ…言っちゃったのにゃ…♪♪♪」 ―麻弥ッッッッ!!!!!!!!
如月の中で、何かが弾けた音がした。そして、ついに如月は気付いた。先ほどからこのこねこに対して生まれていた自らの心のざわめきの正体をッッッ!!!!!!!
―か、可愛い……なんて可愛いんだ、こトロ……ッッ。まるで、愛しい麻弥のような愛情表現の仕方だ……ッ。
アホや、あんた。
ここで作者と同じツッコミを入れた貴方は、エセ関西人@ひよこ好きと良き友達になれるでしょう。ま、そんなコトは今はどうでもいい。
ふるふると肩を震わせ、畳に両手をつく如月の尋常ではない状態に、こトロがとてとてと近づいてきて、トドメの一言。
「ひすい、だいじょうぶにゃ??こトロ、にゃにかした…??…おにゃかいたいにゃら、こトロがいたいにょいたいにょとんでけしたげるにゃ!」
「………こトロッッッッ!!!!!!!!!」
がばっと顔を上げるやいなや、こトロを抱き締める如月。
「ふにゃ?!…にゃにゃ??!!…ひすい、ちょっと、くるしいにゃ…でも…」
「でも?」
少し腕の力を緩めつつ、優しく聞き返す如月。すでにその目は、愛しの招き猫を抱き締めて頬擦りしているときの顔と変わらない。いや、それ以上に優しげだと言ってもいい。ある意味怖い。
「…にゃ……ひすいに、ぎゅ〜ってしてもらえて…こトロ、すごくうれしいのにゃ…ダイスキにゃのニャ…ひすい♪」
「……こトロ……」
ひし、と抱き合う二人(?)のバックには、手描きのちゅーりっぷ畑(作:こトロ)が広がっていた……とか何とか。ご自由に壁紙は差し替えてくださって結構です。ただ、薔薇は似合わないと思いますよ(別にどうだっていいツッコミ)。
こうして。新しい招き猫として、可愛いこねこが如月骨董品店に住みついたのでありますのことよ(簡単すぎる前振りだな、オイ)。
そして数日後……。
がらッッッっと、元気が良いといえば聞こえはいいが、ただ単に力いっぱい扉を引いただけ、という音が、静かな店内に響き渡る。
「よォッ、如月サンッ!!!ちょーっと頼みがあんだけどさ………………」
聞いてくれンだろ?という台詞は、口から出る前に滅殺された。
「いらっしゃいませにゃのニャ♪…今日は、にゃんのごようですか、にゃのニャ♪」
「…………………化けも」
カカンッッと、小気味良い音と共に、雨紋の足元横1ミリ先に、苦無(くない)が突き刺さった。ナイスです、如月さんッ。相変わらず見事な腕前♪って、え?ツッコミは無しか、って?だって、雨紋はキライじゃにゃい…じゃなかった、キライじゃないし、好きなんだけど…愛は感じないから♪
「んなッッ?!?!?!?!あ、あぶねぇじゃないか、如月サンッ!!!」
叫びも虚しく、相手は自分のしたことを詫びるつもりは無いらしい。代わりに出たのはお決まりの台詞。
「…邪妖、滅殺…」
「邪妖ってンなら、そこの白いのの方が邪」
「玄武へ」
「うわうわうわッッッ(滝汗)、お、オレ様が悪かったッッッッッだ、だから玄武変なんざしねェでくれよ!!!!!!!!」
ここは店の中だろっていうツッコミは、もはや意味の無いもの。問答無用の雰囲気バリバリ若旦那。殺る気です♪(♪なんて使ってる場合か…?、自分)可愛いこトロを冒涜する不貞の輩は、飛水流の名にかけて、ってなもんよ(台詞使用目的違)。
「ふにゃ…ひすい、こトロ、ここにいちゃいけにゃいみたいニャ…ぐす…にゃんだか、そにょ人…こトロのこと、キライみたいにゃんだもん…」
はッッ!!!!と振り向くと、如月は、ずどーんと落ち込んで泣きはじめたこトロを、そっと抱き寄せる。
「何を言っているんだ…君は、皆に好かれるべき存在なのだから…ね?」
ちゅっと、ぐるぐるうずまきのほっぺたに唇を寄せる如月。(き、如月サンッッッッ?!?!?!BY雨紋)
「それに、他の誰が君を嫌おうとも、僕だけは違うよ……ああ、かわいい僕のこトロ…」
「にゃ…♪うにゃ……ひすい、ひすい♪だーいすきにゃのニャ……♪」
照れて、もじもじし始めたこトロを、きゅっと抱き締めてから、再び番台の専用おざぶ(もちろんお手製)に座らせると、ゆっくりと雨紋の方へと居直る如月。
「…で、何用だ?雨紋……」
冷ややかな目線はそのままに、如月はようやっと普通の台詞を喋る。しかし、愛しのこトロを泣かせたとあって、その瞳には尋常ではない輝きが宿ってはいたのだが。
内心、冷や汗かきまくりだったが、雨紋は、何とか当初の目的を果たそうと、何とか己を奮い立たせた。
「…あ、いや…そのだな、まあ、たまにはお袋にプレゼントッつーか、いや、オレ様が贈ろうって思いついたんじゃないンだけどよ」
「……経緯を、それほど詳しく聞く気も無いよ…。……そうだね、無難に櫛と手鏡はどうだい?」
と、指し示す先には、そっと鞄にしのばせるに丁度良いサイズの品が、数種類並べられていた。ふぅん、と、そちらへ目を向ける雨紋は、じーっと自分を見つめる視線に気づき、その送り主に、顔を向けた。
「……あにょね、あにょね……??こトロ、きいてほしいことがあるんにゃけど…」
外見がちょっと怖い雨紋に話し掛けるには相当の勇気が要ったのだろう…。おずおずと小声でのお伺いだ。
「…ン?ああ、なンだ?…え〜と、…こトロサン…?」
一瞬「ちび」とか「しろ」とか言いそうになったのだが、脇腹のあたりに危険を感じたため、先ほど如月が呼んだ名を、遠慮がちに使って答える雨紋。実際、何か鋭い物で…ぶるぶる。これ以上は恐ろしいので描写カット。
「うにゃ…♪さん、にゃんてつけなくていいにゃ……こトロだけでいいニャ♪…にゃ♪」
「……そ、そうかい。それじゃ、こトロ?オレ様に聞いてほしいコトってなンだ?」
ぽむ、と手をあわせると、そうにゃ、わすれちゃダメにゃのニャ…と頭をかきかきするこトロ。
―可愛いッていやァ、そう…だよな。
それとなく認識を改め、隣を見ると、とろけるような微笑みがこトロに向けられていた。雨紋は、それを見なかったことにした(はやッッ)。
「うみゃ…あにょね、こトロは、これがいいと思うにゃ。どう思うにゃ?こトロ、センスいいにゃ?」
「ああ、さすが僕のこトロだね…。雨紋君、これにしたまえ。素敵だと思うよ…」
口調は柔らかいが、君には選択権など無いのだよ的な雰囲気ですね、若旦那。
「い、一応…値段は…いくらなンだ?如月サン」
その微笑みに、多少の危険を感じつつ、最重要事項を確認する雨紋。虫の知らせと言うか、このまま番台へ行ってはいけない気がしたのだ。
「……フ…。まあ、壱万と言ったところかな」
さらりと、事も無げに言い放つ若旦那。…貴方と普通の人の金銭感覚は微妙に違うのですよ?って、聞いちゃいないけどさ。
当然、言われた方はたまったものではない。
「な、な…ッ!!!いちまん〜?!?!?!?!?!」
いきなり耳元で大声を出された如月は、思いっきり渋面を作る。
「……何を大声を出しているんだ、君は…。麻弥なら、笑顔で『うわぁ、安いね♪』と言うのに…」
………麻弥の金銭感覚も、だいぶずれているんだが。何しろ100万とかぽんッッと出しちゃえるから。
「…そういうことを言えンのッて、限られてると思うンだけどよ……オレ様…」
雨紋のさりげないツッコミは、柳に風、豆腐に鎹、玄武に水な感じで(最後はちょっと違うけど)、…要は、効果無しってコトだ。
っていうかね、ツッコミとは、そんなに弱々しく言ってもダメなのよッ!!!!…は、話題がそれましたね、修正修正。
「さぁ、雨紋……こトロの選んだコレを、買って貰うよ……???」
艶やかな笑みが、後光を伴って輝いている。あきんど……。ヤバイ、と感じた雨紋は、慌ててその隣を指し示し、
「ええとさ…こ、こっちはいくらなンだ?如月サン……??」
「……ああ、そっちかい?それは、6000円くらいだったかな」
それでも雨紋には、ちょっと痛い額なのだが、一万よりは、ずいぶんと安い。見た目も、雨紋から見ても、結構イイ線をいっている。
「あー、じゃあ…こ」
「……雨紋…?」
後光にダークなオーラが混ざり、なんだか渦巻いているような気がしなくもない(怖)。…思わず、開いた口を閉じてしまうくらいに。
と、その時。
「…ふにゃ……にゃ…やっぱり、こトロの選んだもの、だめにゃんだ……うぐ…にゃから…ふにゃぁぁぁあんっっ」
目に涙を一杯に溜めて、ひっくひっくとしゃくりあげているその様子は、まさに起爆剤。もちろん如月さんの。
―やっちまった…………。つーか、殺られる。
いつもの強気はどこへ行ったか…なんだか哀愁まで漂ってるね、雨紋クン…。
ひしひしと、圧迫感が身体中を襲う。…ごくりと、喉を鳴らす雨紋。あえて、如月を見ないようにしている。
「………雨紋……」
「………………………(だらだらだら)」
「生きて、この店を出たいかい…?」
小声で囁かれるさりげない(のか?)死の宣告。こくこくと、機械的に首を縦に振る。
「フ……ならば…、僕の愛しいこトロに、精一杯の謝罪の言葉を述べてもらおうか……」
「…ハイ……(涙)」
そして。宥めてすかして、散々謝って……。
「にゃ…コレ、買ってくれるにょにゃ…??……ありがとにゃのニャ…♪」
「…いや、イイってコトよ…。やっぱり、オレ様のセンスより、あんたの方がずいぶん上だし、な……ハハ…」
「にゃぁ…♪うれしいにゃ、うれしいにゃ…こトロ、てれるのにゃ♪」
「お買い上げ有難う。また宜しくな」
妙にやつれた雨紋が、店を去っていった(哀)。もちろん、上記の描写でわかるように、しっかりと、壱万円を財布から抜かれて…。
「うにゃ…ひすい?」
着物の袖をきゅっと掴んで、黒いつぶらな瞳が、じっと見上げている。その可愛すぎる仕草に、一瞬己がどこかへ行きそうになったものの、何とか引き止めて、その頭を優しく撫でつつ、微笑みで返す如月。…もう、末期だな。
「なんだい…?こトロ…」
なでなでされて嬉しいのだろう、くすぐったいにゃ…と言いつつも、実に笑顔だ。しかし、眉をひそめて、不安げな表情に変わる。
何事かと、いぶかしむ如月に、こトロはしがみついて、一生懸命な様子で聞いてきたのだ。
「こトロ、ちゃんとお仕事できたにょかにゃ…??ひすいのおじゃま、してにゃい?」
「…邪魔だなどと…そんなわけは無いだろう…?こトロは、立派にお手伝いできているよ」
そっと抱き上げると、こトロのおでこにそっと唇を触れさせる。
「うにゃぁ……♪♪♪ひすいったら、大胆にゃのニャ…こトロ、恥ずかしいにゃ…」
「フフ…こトロ、君が可愛すぎるからだよ…」
店の中ですよ、如月さん…。まあ、いいけどさ…。あんまり客こな…ぐは。おっと、禁句でしたか。
駄菓子菓子。今日はちょっと違った。
「よッ!!おまっとさんッ!!!…って、なんや、お取り込み中みたいやなァ…」
がらがらーッッと、軽快に引き戸が開け放たれ、毎度おなじみの台詞つきで、新たなる客登場。
「……別に、誰も君を待ってはいないよ」
ぼそりと呟く若旦那。しかし、劉弦月はこんなコトでめげない。今日は、必殺アイテム(?)があるからだ!
「ひっどいわぁ〜、如月はん…。せっかくアネキと一緒に来たッちゅうのに…」
「…な?!麻弥が一緒なのかい?」
全然態度違うやん、あんた。そう思ったものの、あえて劉は黙っていた。今回は、麻弥が一緒にいるからだ。
「…お邪魔みたいだね?ゴメンね、それじゃあ、また今度来るね…」
ひょこっと、劉の後ろから、小柄な、黒髪のショートカットの愛らしい少女が顔を覗かせる。
と、その顔が見る間に驚きに彩られた。…だってそうだろ。白いねこ(?)を抱き上げて、頬擦りを今にもできそうなぐらい顔を近づけている如月さんがいるんだから。
「………」
「あ、麻弥…。この子はね」
目をしばたいて、言葉を失っている麻弥に、今の状況の説明をしようと試みる若旦那。駄菓子菓子。麻弥は別方面で驚いていたらしかった。
「翡翠が、浮気してる〜ッッッッ!!!!!!!」
「「はい?」」
如月と劉、同時に発言。いつもなら嫌悪をもよおすのだが、今はそんなコトに構ってはいられない若旦那。
「な、何を言って…?」
「だって、だって、いつもの招き猫じゃないもんッ!!あのこはどうしたの?!?!ヒドいよ、捨てるなんて!!」
「す、捨てる?!?!」
あまり穏やかな表現じゃないよな。
「如月はん……」
額に片手を当てて、後ろによろける劉。思いっきり、露骨なオーバーアクション。イヤミ?
「ち、違うッッ!!!招き猫を磨こうとしたら、こトロがいて…」
哀しそうに顔を歪める麻弥と、大仰に驚く劉を前に、如月はもはや落ち着きを忘れていた。そんな彼に更なる災厄が。
「…こトロ、まねきねこにょ代わり…??やっぱり、まねきねこにょほうが、よかったにゃ…???う…ふにゃ…」
再びぐずりだすこトロに、如月はさらに大慌てで、比較的この中では落ち着いている劉には、哀れに見えるほどだった。
「違うッ。君は、もう招き猫以上に、この店にとって…いや、僕にとって…大事な子だよ…」
―くっさー…。
かなり口に出したいのだが、かなりの修羅場と見たので、心優しい劉は、そっと胸のうちでツッコミをかました。
ッつーか、こトロ見ても驚かないキミと麻弥ってどうよ?…別にいいけどさ。
「……ひすい……」
「こトロ…わかってくれたかい?」
「うにゃ……」
こっくりと頷くこトロに、心底安心して、ほっと息をつく若旦那。おつかれさま♪(ってややこしくしてる張本人て、突き詰めれば作者なんだけどね♪)
「…そっか。今の翡翠にとっての恋人は、そのこなんだね。でもって、あのこを捨てたわけじゃ無いんだね」
茶の間でお茶とお茶菓子を美味しく頂きつつ、麻弥はこトロを膝において可愛がっている。
はい、こトロ、あーんして♪とか何とか。その行動に対して…
劉の場合:めっちゃ羨ましいわぁ…そりゃ、いつもはわいにもしてくれはるけど……。(そうなんかい)
如月の場合:こトロ…う、羨ましい…。いや、それもそうなんだが、こトロは、僕にそういうふうにしてはくれないのだろうか…。今度、「こトロに食べさせてほしいな…」と、言ってみるべきだろうか…。(…も、何も言うまい……)
ようやっと落ち着いて話を切り出せる状況になったので、如月はここ数日の経緯を話したのだ。
(…恋人、ね…)複雑に思いつつも、麻弥が相手なので、ただフッと微笑うに留まらせる如月。
「せやったら、今まで居ったあの招き猫…何処行ったんやろな?」
「…誰かが持ってっちゃったのかなァ…?」
それって、かなりの勇気と実力が無いとやれないことだと思う。
「アネキ、それ…ちーっとばかし、ムリあると思うわ……」
招き猫への如月の執着心は、並大抵のものではないことは、仲間内では有名な話で。だからこそ、招き猫に手を出すような人間は、絶対安らかな最後を迎えられないだろうなどと、まことしやかに噂されていたりするし。って、何処でされてるんだ、そんな噂(もう何度目かもわからない自分ツッコミ)。
「…でも…勝手に歩いて、どっかに行く…なんて、弦月は考えるの?」
「いや、それはもっとムリやって」
「でしょ〜?」
うーん、と悩み始める二人に対し、如月は
「確かに、あの招き猫は、僕にとって大事なこだ…。居なくなったのは、とても寂しいけれど、今はこトロが居るからね…」
それを見て、こトロがぴょこんと、麻弥の膝から降りて。とてとて歩いて、如月の前へ。
「…ひすい。こトロ、ここにいていいにゃ……??まねきねこじゃにゃくても、いいにゃ?」
「当たり前じゃないか…」
「ふにゃ…じゃあ、ちょっとこにょおうち、出て行くにゃ…」
「?!な、何を…っ」
麻弥と劉も、目の前で、突然繰り広げられ始めた人間ドラマを、固唾を飲んで見守る。と書けば聞こえはいいが、要は堂々とデバガメ。
「だいじょうぶにゃのニャ♪……ひすいがこのかっこ、スキっていってくれたから、ちょっとお願いにいってくるにょにゃ」
「この、かっこ…???いや、それよりも……どこへ?…どれくらい、居なくなるんだい?」
「あにょね、あにょね…かえってきたら、ぜんぶはなすにゃ…にゃから…今は、きかにゃいでほしいにゃ…」
うつむいて、手をもじもじさせて。それがたまらなく可愛くて…問い正したい気持ちは山々だったけれど。如月は
「…分かったよ。僕は、この店で、君を待っているから。…必ず、帰ってきてくれよな?」
「わかってくれて、ありがとにゃのニャ…。ぜったい、ぜったい、ここにもどってくるにょニャ!」
「ああ…」
しばらくお互いを見つめると、ぎゅっと抱き合う。
「……すん。感動だね、弦月……」
鼻を鳴らし、潤む眼差しで、如月とこトロを見守っている麻弥。
「ええ話やなァ……ワイも、泣けてきたわ……」
これまた、ごしごしと目元を擦って、涙ぐんだ声で返事をする劉。
「ねぇ…弦月……?」
「…ん?なんや??」
ふわり、と微笑んで、急に麻弥が劉に抱きついた。
「え?え?…アネキ??」
慌てる劉に、くすっという笑いが返ってくる。
「…なんだかね、急にぎゅーってしたくなったの。…迷惑、かな?」
「そんなんあるわけないやん…」
優しく優しく、その小さな身体を抱き寄せる。
「えへへ、良かったッ」
―だって、翡翠はなんだか幸せそうだから。ボクも、幸せになりたくなったんだ。
そして、どうやら、自分達のコトは忘れているようだから、と、麻弥と劉は、そっと店を後にして、ラブラブなデートへと雪崩れ込んだらしい。
ああ、どっちもバカップル。
翌日、早朝の如月骨董品展の表門。
「それにゃ、いってきますにゃのニャ…」
唐草模様の風呂敷に、荷物をまとめて、それを首に巻く。あまりの愛らしさに、別れの哀しみが、よりいっそう押し寄せる。
「ああ…行ってらっしゃい。…ここへ戻ってくるのを、心待ちにしているよ」
「うにゃ……」
こっくりと頷き、こトロは、朝焼けの空の下、何処かへと旅立っていった。
しかーし、ここで終わらないのですな、この話。まだ続くんですよ。区切りいいのにね…どうにも書きたくて……書いちゃいました。
では、数日後に如月家で起こる出来事を、引き続きお読みください…。
「最近の如月ってよォ、なんか変じゃねェか?」
「そうだよね、なんかさ、心ここにあらずって言うか…」
「何処となく影があるような気がするのよね(恋煩いかしら…)」
流石、鋭いですね、菩薩様。まあ、そうかどうかは知りませんが。
「…緋勇は、何か知っているか?」
「ん?ん〜知ってるけど…ヒミツ♪」
…そんな会話がされているとは露知らず、今日も如月は、番台で呆けていた。
ダメじゃん。
いや、店主としてというか、忍びとしてというか、なんていうか。
恋って、厄介だよね……って、如月の心にあるのが恋愛感情かどうかは知らないが。
と、その時。
店の前で、車の止まる音がした。
「………」
ここで止めるというのは、大抵うちに用のある車だとわかっているので、如月は、ようやくその目に生気を戻す。(今までなかったんかい)
車から出てきた数人の人間が、近づいてきたのだが、如月には、訪問者が誰なのか、すぐにわかった。よく知った氣の持ち主ばかりだったからである。
「…御邪魔致します」
凛とした声と共に、黒いスーツの女…いや、式神が、そっと戸を開け、身体をずらすと、主を先に中へ通す。
「……お久しぶりですね、如月さん」
「ああ。…ところで、今日は何用かな?」
ぱら、と扇を開くと、それで口元を覆いつつ、フッと低い笑い声を漏らす御門。
「いえ、御用件をお話する前に、少し聞いていただく事がありましてね…宜しいでしょうか?」
「…構わないが…」
如月としては、了解せざるを得ないので、しぶしぶ頷く。それを受けて、それでは、と御門が話し始めた。
「以前から、ここには何度か御邪魔しました。…そのうち、ある事に気付きましてね。それで、先日、芙蓉にお願いをして、こちらの招き猫を、御門家へ連れてきてもらいました」
「……」
確かに、式神ならば、如月に気配を悟られること無く忍び込み、招き猫を奪い去っていくことなど容易だ。
あまりに意外な犯人に、ぐうの音も出ずに、黙り込む如月。…御門がそんなことするなんて、誰も思わんって。
「…それで、どうして僕の招き猫を……??」
強調したはいいが、さすが御門。さらりと流された。
「なに、あの招き猫から、尋常ならざる想いを感じ取りましてね。それを叶えてあげようと思ったのですよ」
「……想い?」
「ええ。貴方と―如月さんとお話したい、お役に立ちたい。胸を打つ台詞を切々と、語り掛けられました。それで、これはどうにかしてやらなければと」
―要は、鬱陶しかったんですがね。私が気付いたと知るや、これでもかと、涙ながらに訴えられたのですから…。
その時のことを思い出し、少し遠い所を見るような目をする御門。今日の御門は、ちょっと優しいので口には出さないのが。
「も、もしかして……」
またもや低く微笑う御門。
「ええ、お察しのとおりです。…芙蓉」
「御意」
かねてより打ち合わせてあったのだろう、御門が合図をするが早いか、芙蓉が再び店外へと出る。
そして。
カラ、と開かれた店の戸から、丸くて白くて細い手が、最初に。次に、三角の耳。
「う…うにゃ……」
忘れもしない可愛らしい声に、胸がいっぱいになる如月。
「ただいまにゃのニャ………ひすい、げんきにゃった…?」
もじもじと、恥らう姿は、まごう事無き本物で。
「こ、こトロ……!!!!」
しばらく驚きのあまり、動くことすら出来ずに、立ち尽くす如月。
「…それでは、私と芙蓉は、帰らせて頂きますよ。では……」
「…失礼させて頂きます」
「あ、ああ……」
目は、こトロを見つめたまま、何とか間に合わせの返事しか出来ない相手の様子に、やれやれといった感じで、さっと身を翻すと、訪問者は帰途につく事にした。
「あ、あにょ…」
と、後ろから自らを呼び止める声に、立ち止まる。
「…何ですか?もう、私には用は無いでしょう?」
背中を向けたまま、声だけで返す。
「……ありがとにゃ……」
「………いえ」
微かに、主は笑ったようだと。芙蓉には、その時の主が、そう見えた。…気付かぬ振りをして、いつもと変わらぬ表情で車の戸を開けたが。
「芙蓉?」
「…はい、何で御座いましょう、晴明様」
「……いえ、何でもありません」
「…そうで御座いますか。それでは、車を出して宜しゅう御座いますか?」
「ええ」
車の出る音が、遥か遠い場所の出来事のようだと、如月は感じていた。
今、自分にとって大事なことは、目の前にいる愛しいこねこだけなのだから。
「こトロ」
跪いて、優しく呼んで。
「…おいで」
そっと、手を差し出せば、ぽよっとした手が、そこに乗せられる。きゅっと握って、軽く引き寄せた。…そのまま近づいて来てくれる時間が、どうにも煩わしかった。
「にゃ……」
ぽすんと、こトロの身体が、如月の身体に当たる。
「…お帰り…」
ふわりと、その小さな身体を抱き締めて、そっと囁く。帰ってきた相手へ、最大の愛情を込めて。
「にゃぁ……ただいま、にゃのニャ…♪」
耳元の甘い囁きと、込められた想いが、くすぐったいのか。小さく鳴くこねこ。
愛しい、愛しい、僕の招き猫。
これからも、ずっと一緒に………。
・やってしまいました…(^_^;)。如月さんとこトロ…。他にこういうSS書いてる人、いるでしょうかね…いないような気がします…。いたら、教えてください(笑)。つーか長すぎ、自分。書いてて止まらなかった…楽しすぎて……。
・これは、WDにこトロイラストを送った所、そのうちのお一人の綺更萌様からネタを頂きました♪
<こトロありがとうございましたーーー!!!
うにゃ〜、あのむにっとしてそうな腕を引っ掴んで如月骨董品店へ
行き、招き猫とすり替えてこトロと若旦那の初対面を物陰から見守ってみたい・・・!(何ソレ)
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以上あちら様の掲示板より引用(引用許可有難う御座います)。このSSは、綺更様へ!!
・そんなこんなで、書き始め、(自分的に)あっという間に書き上げてしまいました。他の書きかけネタをほっといて(爆)。
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