「しかし、花月君をどうするつもりかね?このままここに泊めれば済むことと言えばそうだが」
色はそれには答えず、電話へと手を伸ばすと、受話器を取り、どこかへと電話をかけ始めた。かけ慣れているのか、動く指は迷いを見せない。
電話は、すぐに相手に繋がったらしく、色はすぐに話し始めた。
「もしもし…そう、私よ。…ええ、もちろん用も無しに貴方に電話をかけないに決まってるでしょ?ちょっとね、貴方に引き取ってほしいモノがあるのよ。それで、うちに来てほしいんだけど…お願いできる?」
相手が何か喋ったのに対して、色はクスリと笑うと、楽しそうに続ける。
「…今すぐに。だって、とても大事なモノだから…じゃあね」
相手の返事ななど聞くつもりも無かったのだろう、言いたいことだけ言うと、色はさっと電話を切ってしまっていた。
「…何処にかけていたんだね?」
「都内の骨董屋よ」
話の流れと電話のやり取りが噛み合っていないと思っている鳴滝は、どうにも事態が飲み込めないらしく、色に訊ねてはみたものの、これまたアッサリと答える色に戸惑っていた。
そんな鳴滝を見つつ、グラスに残っていた酒を飲み干すと、にっこり笑う色。
「さ、貴方もそろそろ帰ったら?若くないんだから、夜更かしのしすぎはダメよ?」
「………」
どう答えたらいいのかと、鳴滝の眉間に皺が寄る。盛大な溜息も付いて。
「ふふ」
程よい酒の酔いも手伝っているのか、色は実に楽しげで、鳴滝の物言いたげな視線も何のそのだ。
「…では、帰るとしよう…。花月君のことは、宜しく頼むよ?」
色に対して、もう一度深い溜息をつくと、念を押しつつ、ソファから腰を上げた。
「ええ、花月にとって一番良い方法を取るから…任せて?」
「なら、いいがね」
鳴滝が帰り、一人静かに酒を飲みつつ、色は待ち人の来訪を待ち構えていた。
と、インターホンを鳴らす音が響く。色はおもむろに立ち上がると、玄関へと急いだ。
「………で?僕に引き取ってほしい物とは、なんだい?こんな時間にわざわざ呼び出したのだから、それ相応の品なんだろうね?」
色がドアを開けた瞬間、不機嫌極まりない声が降ってきた。これまた無愛想な顔とあいまって、とっとと用件を済ませて帰る、と言外にはっきり出ている。
「…もちろん。値段なんて付けちゃいけないくらいのモノよ?でも…貴方になら、特別に無償で譲ってあげてもいいかと思って…ね」
「ほう……。で、”それ”は、何処にあるのかな?」
色の言い分に、多少は機嫌が良くなったようだが、依然として不機嫌な部類に収まりつづけている事には変わりなかった。
「こっちよ、付いてきて?」
如月のぶっきらぼうな言い方など気にも止めないらしく、室内へと歩き出す色。それに付いて、如月も上がりこむ。
「……?…ちょっと、聞きたいんだが……」
家の奥へと進むうちに、如月は”あるもの”を感じて、前を歩く色に、遠慮がちに問うた。
しかし、色は黙ったままで、歩みも止めない。
「………この氣は」
色の態度にもめげず、なおも食い下がって自分の考えを口に出そうとした如月だったが、
「この部屋よ。……この中にあるモノの中で、どれでも好きなモノを一つ、引き取ってくれればいい。…どれを選ぶかは、貴方の自由よ」
とある部屋の中で止まり、ぱっと振り向いた色の、何かを企んでいるような笑みと台詞に、押し黙るしかなかった。
どうぞ?と言って、ドアの横に身をずらした色を横目でちらりと見遣り、一息ついて如月は目の前の部屋のドアを開けた。
そして、真っ暗な部屋に明かりが差し込み、立派な家具やら高価そうな調度品がぼんやりと浮かぶ。しかし、それには目もくれずに、如月はドアから差し込む光の届かない場所へとさっさと歩を進め、とある家具の前で立ち止まった。
音を立てないように気をつけて、そこに膝をつき…その家具の上に横たわるモノに手を伸ばし、そっと触れる。
「決まった?」
少し離れた所から、囁くような声で訊かれる。
「もちろん……」
目の前の存在から目を離さず、如月は答える。
「じゃあ、”それ”を持って帰るのね?」
「……僕がどれを選ぶのか、最初からわかっていた事では無いのかい?」
「…まあね」
「フ……」
「一つ、訊きたい…」
柔らかな寝息をたてる、”それ”―花月を起こさないようにと、いったん部屋を出て、二人は居間へと場所を移した。
「何?」
「どうして、僕が引き取ることになったのかな?このままここに―君の家に寝かせておいても良かったと思うんだが…」
うーん、と唸ると、色は困ったような笑みで答えた。
「…あのこね、間違えて…ちょっと、お酒飲んじゃったのよ」
「…かなり弱いんだよね?」
以前、村雨が酒を取り出した折、花月が自分でそう言っていたことを思い出す。頑として飲まず、かえって村雨の手から酒びんを奪ったくらいであった。その様子から、酒自体が嫌いなのだろうと思っていた如月であったが。
「ええ、ちょっと飲むとすぐ眠くなるタイプ」
つまり、全く飲めないと言うわけではないらしい。それでも、弱いのは弱いわけで。しかし、今それが理由になるのだろうか?
「…それで?どうしてここに置いておくには都合が悪いんだい?」
如月の言うことは最もである。飲んで眠くなり、見た目には気持ち良さそうなのだから、動かさない方がいいはずだ。しかし、色は相変わらず困った顔を崩さない。それどころか、溜息すらつく始末だ。
「……このまま、酔いが醒めるまで寝ていてくれるなら、ね?何も起こらないんだけど」
「”何か”?起こるとまずいことなのかい?」
「……”不測の事態”に対応できる人間がここには居ないからよ」
「…”不測の事態”?」
「そう、”不測の事態”。それが起こったとしたら…貴方相手なら、どうってこと無いのよ。そう、貴方なら…ね。だから貴方を呼んだのよ」
的を射ない曖昧な答えしか返さない色に、もう何を訊いてもこうなのだろうと諦めたのか、如月は問答を切り上げる事にした。
「…とにかく、僕が連れて帰ればいいんだろう?」
「そう。…もちろん、呼びつけたのは私だから…行きと帰り、両方のタクシー代はまた後日請求してちょうだい」
にっこりと、艶やかな笑み。了承の意を取れたことに、かなりご満悦のようだ。
「ずいぶん気前がいいことで。まあ、僕にとっては願ったりだけれどね」
そう言うが早いか、如月は立ち上がると寝室へ向かった。それは、そろそろ帰るということ。それを満足そうに見ながら、色はタクシーを呼ぶべく電話をかけ始めた。
「でも、タクシーの中で花月が起きたら…ま、そうなったとしても如月に頑張ってもらいましょ」
自分の手から離れたら、もうどうでもいいらしい。すでにその声音には先ほどまでの歯切れの悪さは消えていた。
「あ、もしもし?タクシーを一台、マンションの前まで寄越してほしいんですけど…ええ、住所は…」
余談:タクシー代は、もちろん鳴滝氏へと請求されることになるに違いない。
「さ、帰ろう…花月……」
可愛らしい寝息をたてて気持ち良さそうに眠り込んでいるのを、抱き上げるべく、花月の身体に触れる。と、その時身じろぎと共に声が漏れた。
「ん……ひす…」
一瞬起こしたかと、その動きを止めた如月だったが、程なくして、また規則正しい寝息が戻る。
「………」
思わず安堵の溜息をついてしまったのは、先ほどの色との会話のせいだろう。はっきり言って、起きてしまわれるのが怖い如月だった。
止めていた動きを再開しようとしたが、ふと気付き、まじまじと寝顔を眺める。
「…?今、僕を呼んだのかい…??…そうだとしたら、嬉しいよ…」
先ほどの寝言は、たぶん…いや、きっと自分の名だろうと言うのが嬉しくて、柔らかくさらりとした髪を一房すくうと、そっと口付ける。額や頬にしたいのは山々だが、いかんせん先ほどの会話が邪魔をする。
早く花月の酔いが醒めることを心の底から望みつつ、如月は彼女を起こさないように…細心の注意を払って、抱き上げる。
ゆっくりとした足取りで寝室を出たところで、色が壁に背を預けて立っていた。
「じゃ、行きましょ?下まで送るわ」
「よろしく頼むよ」
人を一人抱きかかえた状態では、エレベータを乗り降りするのさえ大変であるし、何より深夜に近い時間であるが故に、万が一マンションの住人に見咎められた時の説明役が必要だ。それを見越しての色の申し出だった。もちろん、如月とてそれは良くわかっている。
だから、あえて簡単にやり取りするだけ。それで通じるのだからそれでいい。ただ、礼の言葉まで省略はしない。
さっと先を歩いて、静かにドアを開ける色。そして、そこを通る如月。何かしら行動を起こすその度に花月を見る二人は、端から見るとほほえましい。ようだが、実際は緊張の眼差しなので、ほほえましいとは言いがたったりもする。
慎重に慎重を重ねるように、ようやく階下に辿り着き、表へと出る頃にはタクシーが着いていた。
「それじゃあ、よろしくね?」
「ああ。それじゃあ、おやすみ」
「ええ、おやすみ」
タクシーの中へと身を滑り込ませ、花月の髪を軽く撫でると、色はもう一度念を押した。
如月の確かな返事に満足したような微笑みで返すと、タクシーから離れる。程なくして走り出したタクシーに軽く手を振りつつ、色はどうなるかしらなどと考えていた。
タクシーの中、道路の歪みやへこみ、ブレーキングやらで車体が揺れるたび、内心穏やかではない如月は、ふと考えた。
―……僕の家まで、花月を連れて彼女が来れば良かったのでは………
そうしなかった理由を考え…ようとするも、隣が気になって上手く行かない。一刻も早く自宅に帰りつくことを真に願う如月だった。
車内、しかも恋人が自分に寄りかかって寝ているという状況は…たぶん何も無ければどれほど幸せであっただろう。
しかし、花月がタクシーの中で目を覚ますことは無く、無事に(?)如月骨董品店の前にタクシーが止まったその時も穏やかな寝顔に変化は見られなかった。
鍵を開ける間待ってもらい、戻ってきて言われた料金を支払い、きっちりと領収書を貰う。
そういったことを全て終えた如月が、ぐっすりと眠り込んでいる花月を抱きかかえてタクシーから離れても。
「ふう…」
如月は、毎晩布団を敷いては毎朝畳むというきちんとした生活をしているので、寝かせるにはまず布団を敷かなくてはならない。
茶の間の壁にもたれかけるように、花月をその腕から降ろす。
―……もう、このまま起きはしないだろう…。
揺れる車内でも起きなかったことにほっとしたのだろう、規則正しく揺れる肩に手を置き、目の前の愛らしい寝顔に唇をそっと押し当てた。
軽く撫でるように触れただけだったのだが。
「…ふにゃ……?…………ひーすい〜?」
ゆっくりと瞼が上下し、寝起きの瞳に映った恋人の名を、ぽやっとした甘い声が、囁きかけるように呼ぶ。
「……起こしてしまったようだね?今、布団を敷いてあげるから…しばらく待っ」
如月の台詞は途中で遮られ、その目は次第に大きく開かれていく。
…言葉を出すべき場所が、柔らかなもので塞がれてしまったから。そして、優しく…しかし遠慮も無く、口内へと舌を差し込まれた。忍ばされた舌が、自身の舌を絡めては愛撫するのを、ただただ如月は甘受するだけ。
実際には、それほど時間は経っていなかったのかもしれない。だが、舌が去り、唇が離れた時、遠い場所から引き戻されたような感覚すら覚えてしまった。
「んー……どおしたの〜?かたまっちゃってなーい〜?」
固まりもするよと言いたいのだが、上手く声が出ない。…いつも、如月からキスすることはあっても…逆は、滅多に無かったからだ。
「……えへへ〜…ねー、ひすいって…」
しなだれかかるように、花月の腕が如月の身体に回される。
「…何?」
体重を預けつつ如月の顔に頬をすり寄せる恋人を、しっかり抱きしめ、優しく訊ね返す。
「んー…っとね〜、えっとね?」
「うん?」
掠れたような声で喋るために、何とか聞き取ろうと、さらに花月の口元を、自分の耳元へ寄せたその時。
「すきありっ」
「!!!!!!」
ぺろん、と耳朶を舐め上げられて、何とか声を出さずにはいれたものの、余りに突然の行為に、如月は思考が暫し飛んでしまった。
「ひすいのこと、だいすきなの〜っ」
そう言うと、今度は首筋に唇を這わせ、甘い痛みを合間に混ぜる。
「だから、ね?こうやってしるしつけるのっ」
くすくすと、楽しそうな物言いに、如月は混乱する頭の隅でようやく答えをまとめあげた。
―………酔っているな……少し飲んだだけだと聞いたのに…酔いが抜けきるのが遅い体質なのか…。
しかも、絡むタイプ。道理で、色が持て余していたのだと…今更ながら気付くのは、遅すぎたのか。兎にも角にも、車内でこの小悪魔めいた恋人が起きなかったことに対して、全然関係ないだろうに、如月家のご先祖様は子孫に感謝されてしまうのだった。
そして、そんな如月を見ながらひとしきりくすくすと笑い、もう一度、しかし今度はちゅっと可愛らしいキスをすると、幸せそうに…また眠りの世界に引き込まれていった花月。何処か疲れたような…それでいて、幸せそうに見えなくも無い微笑みを浮かべた如月を置いて。
ようやく当初の目的であった布団敷きを終えた如月は、気持ち良さそうに眠る恋人を横たえ、その横に、すっと身体を滑り込ませた。
「おやすみ……花月…」
*
*
*
*
*
雀の愛らしい鳴き声を、何処か遠くに捉えながら、次第に覚醒してゆく頭と身体が、それぞれ色々なモノを感じ、考える。
如月の場合:
―……もう、朝か…。
などと考えつつ、しばらくは、腕の中に閉じ込めた愛しい存在が目覚めるのを待とう、と…ゆっくりと瞼を押し上げた。
すると、相手もほぼ同時に覚醒し始めたのか、おとなしくおさまっていた場所でもぞもぞと動き始めた。
花月の場合:
―……?…???……色のベッド、こんなに固かったっけ…???あれ…この匂いも…色の家じゃなくって…えっと…
完全に覚醒しきっていない意識の中では、思考は上手くまとまらない。
―……?!
少し身体を動かしてみると、自分の身体が、温かいものに密着していることに気付く。
「…ん……し、き…?ごめん…ベッド、半分使っちゃって…」
それが人の身体だとすぐわかり、自分が意識を手放す前に見た最後の人間だと…花月は、そう思った。
けれど、返ってきた声は。
「おはよう?花月」
「ん…おはよ………………%&?@*#!!!!!!!!!!!」
普通に返事を返し、ややあって声にならない驚きで大きく見開かれた花月の瞳の中には、いつもと変わらぬ穏やかな笑みを浮かべた愛しい人。
「ひ、ひす…??翡翠ぃ?!?!?!?!」
―確かに色の家に居たはずで。最後に見たのは色の顔で。最後に聞いたのも色の声、で…。え?ええ??
目覚めたのはいいものの、花月の頭の中は混乱するばかり。
「花月……そんなに驚かないでほしいな。目覚めて僕が居たら悪いみたいだ」
「…そ、そんなコトは…ないんだけど……その…」
「その、何?」
「……私、色の家に居た、はずなんだ…けど……」
そこでいったん言葉を切って、黒く濡れた瞳が周囲を見回す。古い柱、年代モノの掛け時計…白壁…映るもの全てが、”ある場所”であることを強く主張する。それでも、花月は声に出して確かめずにはいられなかった。
「ここって…たぶん……」
「そう、僕の家だ」
「………ね…どうして、私……翡翠の家に、いる、の……?」
恐る恐る訊ねるその声音、不安げな眼差し…仕草の全てが語る。
<ドウシテココニイルノカ、ワカラナイ>
どうやら、誤って酒を飲んでしまったところあたりから、今の今までの花月の記憶は、抜けているらしかった。
―昨晩の君に、散々振り回されたのに…
苦笑いしたくなるのを胸の奥に抑え、如月はゆっくりと花月の髪を撫でながら、抜け落ちた記憶の部分を埋めてやるべく、話した。間違って酒を飲んでしまい、酔って眠ってしまったらしいこと。色に呼ばれて、自分が迎えに行ったこと。
…酔った花月の行為は、とりあえず伏せておいた。
言ったら、顔を真っ赤にして恥らう花月を見れただろうけれど。
言えば、たぶん彼女は今すぐにここから逃げてしまうだろうから。
だから……
言わない。
『……途中で起きた?』
『まあね』
『………絡んできたでしょ』
『…まあ、ね』
『でも、貴方なら恋人だし、いいわよね?』
『ああ。…ただ、幾つか聞きたいんだが…』
『なに?』
『その……今までに、男の前で酔ったことはあるのかな…?』
『ええ、あるわよ』
『……』
『紅葉とか、あのこの師匠とか』
『………………』
眉間に皺が寄るのが、電話口の向こうにすら伝わったのか。
『ねえ、アレくらい許してあげなさいよ?それに、無意識なんだし…』
如月を諭すような、あきれたような。花月を庇うような…そんな物言いに、はあ、と溜息をつかずにはいられなかった。
『そうだけどね。さすがにアレは……』
ほんの少しの怒気を含んだ言い方に、色はなんと、笑い声で返した。そして…
『頬にキスとか、抱きついたりとかぐらいだったでしょう?”それくらい”で割り切らないと、あのこがお酒を間違って飲むたびにやきもきすることになっちゃうわよ?』
茶目っ気のあるものじゃない、と…そう、言ったのだ。
『……え?…そ、その程度だったのかい…???今までは…』
では、昨晩の花月が自分にした行為が、先ほど自分が嫉妬心を抱いた人間達が花月に受けた行為とは違うということ。
『今まで??ねえ、ちょっと…何したの、あのこ…』
如月が珍しくどもっていることが、色に不信感と好奇心を湧かせてしまったようだ。糾弾を受けて、如月はしまったと、軽く下唇を噛む。
『……いや、その……』
『…言いなさい?』
『………言えない……』
追い討ちをかけるかのような強い語調に、ややあって、はっきりとした否定の意が述べられる。
『…詳しく言わなくてもいいから』
しかし、色とて、それでは納得しがたいらしく。
『……君が言っているのよりも、数段上だとしか……』
暫し考え込んだ後、如月は…ようやくそれだけを言った。
『…………ふうん…』
相手は、一を聞いて十を知るのか…どれほどかは伝わったようで。
『…花月にも、言ってはいないんだけれどね』
『言わない方がいいかもしれないわね。それと…』
『ああ、わかっているよ。他の男の前で酔わないように、目を光らせておかないと…』
『でも』
『ん?』
『今まで、花月って、可愛い…って言ったら変かもしれないけど、可愛い絡みって言うタイプだったのよ?なのに…』
『どうしてだろうね?』
『……貴方だからかしら?』
『だったら、良いのだけれどね?』
たぶん、そうよ。
あのこは、貴方が好きなのだし?
「そう、かな……?」
呟きながら…首筋に手をやる。
疑問符をつけた台詞であっても、顔には確かな自信が見え隠れしている。
鏡を見れば…そこには、紅いしるし。
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