How Did I Fall In Love With You

 

「翡翠は、ここに居つづけるんだろう?」

「…ああ」

「翡翠は、この店から離れないんだろう?」

「…ああ」

「……翡翠は…ずっと、誰かを待つんだろう?」

「…………」

「………自分から、誰かを追っては、行かないんだろう?」

「…………だろうね」

「じゃあ、さよならだ」

「……龍麻」

「……もう、僕と翡翠は、終わりなんだ。…翡翠は、僕と一緒には行かない、行けない。翡翠は、ここから動かない」

「………龍麻」

そんなに優しく名前を呼ばないで。

そんなに愛おしい瞳で、見ないで。

……貴方に、キライになってほしいのに。

「僕さァ、夢があるから。翡翠とここに居ちゃ、叶えられない夢があるから。だから、ここから離れるんだ」

貴方は、ここに居なくてはいけないから。

私と一緒に来ては、いけないから。

全てが貴方を縛り付け

何もかもが私を遠ざける。

「……僕は、止めはしない。…でもね」

だから、私は貴方をキライになる。

貴方は、私を忘れなくてはいけないから。

だから、それ以上言わないで。

だから、それ以上近づかないで。

なのに、どうして。

貴方の唇が

「待たせてもらうよ。…君は言ったね?……僕を、”誰かをずっと待つ人だ”と。”誰かを追っていかない人だ”と。…だから」

こんなに甘いの―。

「…終わりだって、僕と翡翠は」

「ああ、今の僕たちは、今終わったね」

「………だからさァ…」

「僕は、”誰か”を待っている。………ここでね」

笑ってしまうくらい、真っ直ぐなことしか言えない貴方。

泣いてしまうくらい、一つのことしか、見えていない貴方。

「………”僕”は、ここには戻ってこないよ」

暖かな言葉。

「……誰が帰ってきても」

優しい声。

「……」

狂ってしまったような、貴方の全て。

「僕は、ここに居る」

私がそうさせた。

「……いつまでもそう言ってろよ」

だから、私はここから居なくなる。

「……いつまでも、そう言わせてくれる相手がいるからね」

私のことを、貴方が忘れるように仕向けて。

「………何処にだよ」

貴方は、ここに居なくてはいけないから。

私を、想っていてはいけないから。

「……さあ、何処に居るんだろうね」

貴方は、私を追えないのだから。

貴方が、辛いだけ。

「…バカは、キライだ」

ねえ?

そうでしょう?

動くことのできる自由を持たない貴方。

鎖が絡みつくその腕で

錘の付いたその足で

「僕は、バカではないよ?」

どうやって私を追いかけるというの

「…じゃあ、なんだって言うんだ?」

忘れた方がいい。

そう、追えない辛さは、心を病ませてゆく。

「………一途なんだよ…」

だからといって…

貴方は、待たなくていい。

立ち戻れる自由を、私は持っているけれど。

「…そうやって、屁理屈こねるのが、バカなんだよ」

待たれたら、戻ってこなくてはいけないでしょう?

「………そうやって、いつまでもここに居る君は、バカではないのかな?」

そう。

貴方に辛い想いをしてほしくは無いし

「…なら。離せよ……俺は、ここから出て行くんだから」

誰かが待っている、

そんな枷に囚われたままでは

私がどこかへ飛んでゆけないから

「……いってらっしゃい」

私が、どこかへ飛んでゆけないから

「…違うだろ。出て行けだろうが?」

追わないで(待たないで)

貴方はここに居なくてはいけないのだから

「今まで君にかけた言葉で、見送ってあげたいからね」

待たないで(追わないで)

私はここには帰ってこないのだから

「……フン…」

貴方は、ここに居なくていけないのだから

私は、ここには帰ってこないのだから

忘れて。

今までの私を。

今までの私を。

追えない辛さも

待つ苦しみも

何も無い日常を貴方に。

貴方を失うことで

私も

一緒に行けない歯痒さから

待たせる哀しみから

解き放たれるから。

Fin

 


 

タイトルは、BACKSTREETBOYSのアルバムの中に入っていた1曲
これを聴いていて、ふと急に書きたくなったのがこの作品。

この作品に、未来を、幸せを感じるかどうかは貴方しだいです。

そんなものを感じないようにも書いたつもりです。

でも、そんなものを感じるようにも書いたつもりです。

 

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