おぼろげに、とめどないノイズが聞こえる。 ハンターだからなのか、元々の性質なのか、葉佩は眠りが深いほうではない。少しの音、僅かな光でも覚醒することがしばしばある。 「...んー」 瞼越しに感じられる世界は、完全なる闇ではないようだった。 仄かな光の刺激に眉を顰める。 唸り、葉佩は首を逸らして寝返った。ベッドのスプリングが軋み、ぷん、と甘い花の香を枕に嗅ぐ。 自室じゃないな、と嗅覚に違和感を覚え、ついで、遺跡帰りに他人の部屋へ上がりこんだまでを思い出した。 ― で、そのまま寝てしまったと。 記憶は曖昧で、だから、そういうことなのだろう。 生欠伸をひとつ噛み殺す。しかし躰は起こさず葉佩は顔だけを動かして、厄介になった部屋の主を捜した。パソコンの起動する静かな電子音を捉え、其れが在るべき場所、机を葉佩は見る。 薄暗い室内で、そのただ一箇所だけがひどく明るかった。 白光が主の顔を照らしている。強くクセのかかった髪も、紫色のセーターも、そして、普段は光の滅多に差し込まないかの瞳も、今はすべてが晧々としていた。 葉佩は僅かに逡巡し、ややあって部屋の主の名を呼んだ。 「…。何してる、甲太郎」 「― 別に。見りゃわかるだろ」 素っ気無い返事が返る。葉佩のほうをちらりとも見やしない皆守は、頬杖をついて机上のモニタを眺めていた。利き手はマウスを包み、時折り、指が跳ねて、カチかちと釦を押している。一定の速度で眼球がスライドするから、画面を読んではいるのかもしれない。反面、ただ規則的に文字を拾っているだけにも見えた。 ラジオがついている。絞られた音量だ、スピーカーから遠い葉佩では細部まで聴き取ることが出来ない。かろうじて拾った言葉尻から、天気のことを言っているのだと知れた。 幽かな光と、淡い音のなか。 液晶が放つ光源を呑んで、皆守の眼だけが輝いている。 「……綺麗だな」 微睡むままに、葉佩は微笑い。綺麗だと、呟いた。 「何が」 皆守は相変わらずモニタを見ている。 「ひかりの入ったお前の眼。すごい、きれいだ。…ビスクドール?あれみたいな、さ」 「…」 興味無さそうに瞬いただけで、皆守は何も言わない。 「なあ、卒業したら俺の嫁に来ない?」 非論理的な問いをしたら、此方を向いてくれはしないだろうかと。そう思ってのことだった。 「考えておいてやるよ」 戸惑ったのは、葉佩のほうだった。 「…え?マジで?」 思わず上体を起こす。 すると、計ったかのように皆守が葉佩を捉え、ビスクドールはうすく微笑った。 「期待だけしてろ、莫迦」 |
■□■before you know 夜明けのビスクドール/皆守甲太郎■□■ 葉「なぁんてな、なぁんてなvvv (*>
▽ <*)ノノ(バシバシ)」 |
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