なぞあいてむ。

ぱらり。

 ○月某日

  某所より連絡あり。この僕にとある人物を捕獲し、研究・実験をしろと言う。ふぅん…まぁ、僕なら何だってやってあげるけれどね。
  彼らには、惜しみない資金協力をしてもらえるし、何より、好きなようにやらせてくれるからねぇ…クククククククククククク(以下数十行続く)
  フフ…対象の人間に関するデータは、後日届くらしい。彼らがわざわざ指定したんだ、それなりに面白い素材なんだろう…。

  さて、明日は何体バラすかな。いや、くっつける方にするか…。ああ、今日も考え事で眠れなさそうだ。(どうせ昼間寝てるくせに)

 ○月某日

  今日、対象のデータが届く。御丁寧に付けられた表紙をめくる。資源のムダだな…。(貴方のしてるコトよりは有益だと思うけど)

  (点々と、日記に赤黒い染みがある)

  素材の写真を見た途端に、思わず鼻血を吹いてしまったよ。こうやって書いている今もまだ止まらない。
  僕の紗夜も、充分すぎて怖いくらいに可愛いが、この娘も…僕の好みだねぇ…くくっ…こういう研究やってて良かったなァ…あいつらと知り合いでよかったなァ…くくくッッ…。
  早速、捕縛の為の下準備を練ろう♪

  ああ、今日も睡眠時間が…v(その年でハートマーク書かないでよね…)

 ○月某日

  やはり、こういう娘の驚いた顔やら哀しそうな顔を見たいよねぇ…となると…

  ここは一つ、古今東西に広く伝わる(伝わってるわけないでしょう)「友達だと思っていたあのこが実は敵の手先だった」という、実にセオリーに基づき、かつ素晴らしい作戦で行こうッ!!!(どこが素晴らしいのよ…)

 ○月某日

  二晩ほど徹夜してしまったよ。日の光に当たると灰になってしまいそうだ。どうせこのじめじめとした居心地のいい地下から出る気も無いが。

  (くらッッッッッッッ!!!!!!!!!!!もやしっ子も真っ青ね…

 ○月某日

  僕の可愛い紗夜に、高画質高性能最新デジカメを買いに行かせた。もちろん、詳細なデータを取るために必要なのだから、バッチリ研究資金として請求することとする。そのまま言うとばれそうだからキッチリ裏工作はしておこう。

  (別に今さら誰も信じちゃいないと思うわ…。あ、実は買ってきた後に請求したお金、水増ししてあったの。…知らなかったと思うけど)

 ○月某日

  ついに計画実行の日がやってきた。まずは、町の人込みで偶然ぶつかってヒトメボレという恋愛ゲームの基本中の基本、大原則からいってみよう。大丈夫、僕の可愛い紗夜になら出来るッ。…相手は女の子だが、まあ応用は利くだろう。
  (……そう言えば、恋愛ゲームはたいてい手を出していたわね……モテなかったし)

  (実は計画性が無かったのよね、この人。……病院から屍体を盗む時だって、どこの病院に屍体があるか、コックリさんに聞いていたくらいだもの。恐ろしいくらい当たっていたけど。…数少ない特技だったわ…)

  思った通り、どうやら上手くいったらしい。僕の可愛い紗夜曰く『大丈夫…私に任せて?兄さんの思い通りにしてみせるから…』と言っていたから、失敗することは無いと思っていたけどね。僕の研究に進んで協力してくれる紗夜は、とても可愛いなァ…。さて、今日はとりあえず出会い変…もとい「出会い編・めくるめく運命のヨ・カ・ンv」が無事終了したということで、今日イロイロといじったこの屍体に記念プレートを貼り付けておこう。クク、光栄に思ってくれよ。

  (ネーミングセンス、まるっきり無いのね……。名前の当て字ぐあいからして、何となくそうかしらとは思っていたけど…)

 ○月某日

  彼らの下っ端忍者達は、本当によく働いてくれるから大助かりだよ。「彼女の登校ルート」「彼女の交友関係」「彼女の趣味」何から何まで、文句一つ言わずに調べてくれるからねえ……。しかも無料、これはいい。まあ、これも研究援助の一端と言うことだろうけど。

  しかし、たまに帰ってこない奴がいる…。僕の可愛い紗夜では撮れない”私生活隠し撮り”とかを頼むと、どうもダメなんだ……。何故だ?

  (たぶん、それはあの女の仕業よ…帰ってこなかったんじゃないわ、帰ってこれなかったのよ…ふふvでも、私だったとしても同じことをしたと思うわ。流石に隠し撮りは…ね…ダメよ♪…私は、散々したけど)

 (ぱらぱらぱらぱら)

 △月某日

  アレから数ヶ月……来る日も来る日も、十数冊あるアルバムに収めた写真を丹念に眺めては頬擦りをし、溜息をついていた日々。それも、もうすぐ終わりだ。ようやく、僕が行動を起こしてもいいという連絡が来たんだよ。

  待っていてくれ、マイ☆ハニー麻弥ちゃんッ!!!!

  今なら腐童と一緒にダンスを踊ってもいいくらいに嬉しい気持ちでいっぱいだ。腐童に、踊りを教えておけばよかったと痛く後悔している。

  (見たくないわよッッッッ!!!!!!!!!!!ほ、本気で実行に移さないでくれてよかった…)


 ぱたん。ここまで読み進んだ分厚いソレを閉じると、その少女は目を閉じて、今は遠い過去の日へと思いを馳せ始めたのであった。
 伝統とセオリーに乗っ取って、”ソレ”を抱きしめつつシャボン玉トーンをバックに飛ばすアヤシゲな様子に、周りの一般な善良(じゃないのも居るには居るだろうが)市民がそそくさとその場を立ち去ったのは言うまでもない。
 「ままー」
 「しッ!!見ちゃいけませんッッ!!」
 そんな会話もあったりなかったりで本当はちょっとあったり。
 あまりにアヤシゲなその気配に鳥たちも一斉に飛び立ったり。その場を動けない植物達は、どれほどその自由を羨んだであろうか。

 周囲の不穏な動きになど気に求めず、少女―比良坂紗夜は、どりぃむの中へ。ああ、ヘンなこ。

 ―そして、運命の日が来たわ〜回想編〜(注:一部多大な脚色がございます)―

 ―………はッッッ!!!!!愛しいマイ☆ハニーの愛の鉄拳で夢の世界に旅立っていたら、いつの間にやら僕のささやかなお城、もとい研究室が炎の海!?!?!?!?早く消さなきゃッッ!!でも体が動かないぃぃぃ〜ッ!!!さすが、マイ☆ハニー…キミの愛は強いんだね…って今はそんな場合じゃないよねー!?(かなり錯乱)

 「兄さん……」
 「さ、紗夜…?」
 「ごめんなさい、兄さん…でもね……」
 危機感迫るタイタニックなんざ目じゃないぜ的な(そう思ってるのはアンタだけだと思う)この場の雰囲気にそぐわない天使のような慈愛に満ちたその笑みに、死蝋影司(変換めんどいですな、この名前)は、暫し目の前の現実と熱さを忘れた。
 「麻弥さんは、兄さんには渡せないの。私は、兄さんと言う外道から愛しい麻弥さんを守らなくちゃいけないのよ…だから…」
 「…紗夜?何を言ってるんだ…??」

 ここでボケるか死蝋影司。

 にっこり。いっそう可愛らしい笑みを浮かべ、ふっくらとした形良い唇が言葉を紡ぐのを、うっとりと眺める死蝋。がしかし。次の瞬間、コイツは地獄落とされるのを知らない。

 死んで♪

 「な――――――?!?!?!?!?!?!?!な、何を言っているだ、僕の可愛い紗夜!そ、そうか、僕が麻弥君にうつつを抜かしていたから焼きもちをッッッ…ああ、済まなかった。僕には君しかいなかったのに…今気付いたよ…遅かったかい?だが、これからの二人の時間を考えればそれほ」
 自分を全く無視して喋りまくる兄を、笑顔で(ただし目は笑っていない)で、黙らせる紗夜。背筋がぞくっとしたのはたぶん間違いじゃないぞ、死蝋よ。
 「違うのよ…兄さん……。私、麻弥さんが一番愛する人になってしまったの…。日々あの可愛らしい笑顔を追いかけているうちに…」
 うっとり。そんな形容が今ほど似合うことはあるまいと、妙なところで感心する死蝋。妹が妹なら兄も兄?
 「その愛しい人をいじくりまわそうなんていう極悪変態鬼畜暴走最低最悪、百害あって一利無しな青白マッドサイエンティストの兄さんの魔の手から、愛しい愛しい可憐な麻弥さんを助けてあげるのが私の使命だったのよ……今さっき、悟ったの」

 悟んなよ。つか、己の兄に対する形容が長いってば。

 ようやく我が妹の変異ぶりに気付いた(遅すぎ)死蝋が反論しようとした時、その頭にちょうど良く瓦礫衝突。意識はフェードアウト、あ、いや違ったブラックアウト。

 (ホントに偶然、ちょうど良く瓦礫がぶつかったのかなあ?とか思ったそこの諸君、それはボクとキミとの秘密だよ。(くす))

 死蝋が意識を(かなり不本意ながら)失ったその直後(望んで失うものでもないが)、二人を取り囲む炎のカーテンの向こうに数人の人影が見てとれた。
 そう、言わずと知れた麻弥たち一行である。

 「紗夜ちゃんッッ!!!」
 麻弥の必死の声に、営業用スマイル、もとい悲劇のヒロインのマスクを一瞬でかぶりなおす紗夜。役者よのう。

 「私たちの…(って言うか兄さんの)罪は、こんなことでは消えないのは、わかっています…。でも、こうするしかないんです…(匂いは根元から、って言うし、悪も元から根絶しないとダメなのよね)」
 「ダメだよ、紗夜ちゃんッッ!!」
 「…ごめんなさい、麻弥さん………」

 ―こうすることで、私の存在は、くっきりはっきり鮮やかに麻弥さんの心に残るわ……。ああ、なんてステキなのかしら…(うっとり)ふふふ、あの女に勝ったのねッ!!貴方にはここまで出来て?!出来ないでしょう??おーっほっほっほっっ!!!!!

 既に瓦礫で麻弥の視界から消えているのを承知で、恍惚とした表情やら優越感に満ち満ちた表情やら、さては握り拳まで作っている。

 死蝋影司。妹の野望のために実は利用された哀れな男の人生は、妹の高らかな笑い声に彩られつつ終幕したのであった。

 めでたしめでたし♪

 ―それは運命の日だったわ〜回想編〜―終了。(なんかタイトル変わっとるやん、というツッコミを入れる輩は瞬殺よv)

 ぱちぱちと火のはぜる音をBGMに、懐かしい遠き日の思い出をリプレイしていた比良坂紗夜。アレを思い出と言い切るあたりがステキ?場所はちなみに中央公園。
 そう、中央公園といえば学生ホームレスこと劉弦月のまいほーむ。そんな場所ゆえに。
 「紗夜、ちゃん…??何してるの?焚き火??」
 我らが黄龍の器、麻弥もかなりの頻度で出没している。ソレを見越しているのか、ひょこっと突然可愛らしく覗き込まれても、うれし泣きすることはあれども、驚いて叫ぶことは無い。
 「麻弥さんV…ええ、ちょっとコレを…燃やそうと思って」
 そう言って、毒々しい朱色にドドメ色でわけのわからない文字が刻印された本のようなものを麻弥に見せる紗夜。よくよく見れば、その表表紙には「DIARY」と、金箔で箔押しされていた。

 趣味わる。

 しかし、そういった感想にも疎い純情無垢な麻弥は、その英文字タイトルをじっと見つめる。
 「んーっと、DIARY…ってコトは日記帳…だよね??誰の?」
 「はい…兄のなんです。……遺留品を整理していたら出てきました」
 「えと、焚き火をしてる、ってコトは…もしかして、ソレ燃やしちゃうの?」
 「…ええ。兄に返してあげようと思って…。コレは、兄の心の内を記したものですから、他人の目に触れるのを嫌がるんじゃないか、って」
 じっくり読んだ上に赤ペンでのツッコミやらその他罵詈雑言を吐いていたという事は、もはや本人の罪の意識外らしい。

 して、その心は。
 ―こんないかがわしいモノを残しておけるもんですかッ!!とくに、汚らわしい中身を可愛らしくて穢れのない天使のような麻弥さんに見せてはいけないわッッッッ!!!!!

 ソレが本音かい…。聞かなくてもわかっていたが……展開として聞いとくべきかと…うん。

 「ふふ………見てらっしゃい、兄さん…麻弥さんの目の前で燃してあげる……うふふ……」
 「え?紗夜ちゃん、今何て言ったの??」
 俯いてぼそぼそと言う紗夜を心配そうに覗き込む。その眼差しと仕草にはぁとを矢で射抜かれつつも何とか見た目は平常心を保つ紗夜は演技モノだ。いや、真に恐ろしい女ってこういう生き物なのかも。(閑話休題)

 「あ、ごめんなさい…(哀しげに微笑む)ちょっと、兄さんに話し掛けてしまって……」
 あながち間違ってもいないので、嘘というわけでもない。が。顔と心があってないのは皆様お気づきの通り。
 「ううん、ボクこそゴメンね?なんだか邪魔しちゃったみたいで…。紗夜ちゃん見かけて、嬉しくて…つい話し掛けちゃったんだあ…」
 「いえ、本当に気にしないでください、麻弥さん」
 しゅん…と、誰に怒られたわけでもないが、気落ちして目を潤ませる麻弥に、さらに心をトキメかせる紗夜。不謹慎な、と思いつつデジカメセットしといて隠し撮りしときゃよかったと思うあたり、全く反省の余地無し。
 やはりあの兄にしてこの妹あり、である。

 しかし、そんな相手の心のうちなど全く意に介さない(というか気付かない)天然娘は、気にしないで、という優しい言葉にぱあっと顔を輝かせる。
 「ありがとう!!紗夜ちゃんは、ホントに優しいね。ボク、紗夜ちゃんのコト大好きだよ!」
 「私も、麻弥さんのことが大好きですよvvvvvv」
 「えへへ」
 妙に強調するところが、まことに不穏分子の資質充分なのだが(既に不穏分子だけれども)、相手には伝わらないので良しとしておこう。
 好きと言った相手が好きと返してくれて、とてもご満悦の麻弥。

 そう、意識レベルが小学生。

 ……というか、それくらいの天然さと図太さを持っていないと、個性豊かな仲間たちの愛情を受け流せまい…。

 (今ひとつ図太さの足りない劉が、恋人に向けられる仲間たちの愛情でいつも苦労しているのはここだけの話。)

 ぱちぱちと勢い良く音を立てるドラム缶の炎に目をやり、手元の日記帳に再び目を落とす紗夜。
 「……さよなら…兄さん…」

 声は痛く切なげで哀しげだが、グッバイ★と心は笑顔。表立った表情はどこか遠くを見つめる儚げな少女。意を決した顔で、ばさっと火の中に日記を放り込む(その実体は何の未練も無いとも言う)。
 めらり、と、炎が揺らぎ、絡め取るように火が日記を覆ってゆく。包み込まれた日記は、その形をゆっくりと壊していった。
 何となく立ち上る煙がどす黒く紫めいているのはどうしてであろうか…。やっぱりあの研究室に置かれていた時分にじっくり染み付いた諸々の薬品やら怨念の具現?

 「……ッ…」
 咽ぶ声に、炎に魅入られていた麻弥がはっと横を見ると、口元を抑えた紗夜が居た。その目尻には、うっすらと涙が浮かんでいる。
 そして、ぽろぽろとしか表現のしようもないくらい唐突に紗夜の瞳から涙が零れ落ちてゆく。
 「え?さ、紗夜ちゃん?!?!どうしたの?大丈夫!?」
 おろおろと、見ているこっちが申し訳なくなるくらい慌てふためく。
 「あ…えっと…」
 無理に笑おうとしているのだろうが、涙のせいで上手くいかない。そんな紗夜を、麻弥はぎゅうっと抱きしめ、ぽむぽむと優しく背中を叩く。
 何とか宥めようとして、必死なのだ。
 「……すみません…やっぱり、頭でわかっていても、辛い…みたいです…」
 「そういうものだよ…我慢しなくて、いいよ」
 もう一度、きゅうっと抱きしめる麻弥には見えない位置、紗夜の手のひらの中には目薬が。女の子らしくピンクのアレ。

 ああ、やっぱり心の清らかな女性だったんだね!!とか思った人が居たらごめんなさい。コイツはこういう女です。

 確信犯めいた笑みをこっそり浮かべて、自分も相手を抱きしめようと手を伸ばしたその瞬間。

 やんごとなき殺気を感じ取った比良坂は「ラーラーラー♪」と素早く応戦を試みた。

 すると何故か空中で謎の爆発が。

 「………私の口の速さを舐めてもらっては困るわね…」
 単にハミングしとるだけやん。

 「????」
 一人、何が起こったのかわからない麻弥が、くっつけていた身体を離し、きょときょとと爆発元を探しているのはご愛嬌。
 では、解説してみよう!
 要は…単に、遠距離攻撃を仕掛けられたと察知した比良坂が、ソレをやり過ごすべく《力》を使っただけのことだったりする。
 誰が仕掛けたのか…って…そりゃあ…ねえ…。

 「うふふふふふふふふ」
 
(真打登場のテーマつき。ちなみに曲は各自お好きなものをおかけください)

 「あら、美里さんvどうしたんです?(うざったいわね)」
 「あら、比良坂さんこそv(アンタこそなんなのよ)」
 「…あんまり危ないことをしないでくださいね?」
 「何のことかしら?公園で焚き火をすることの方がどうかと思うのだけれど」
 「……」
 「………」
 「うふふ」
 「うふふふ」

 風雲急を告げるというか、暗雲とぐろを巻くというか。(何か違?)
 目の笑っていない女同士の微笑みあいは世紀の大決戦を予感させるものがあった。

 「…アネキ、アネキ」
 と、睨みをきかせあう二人に気取られまいと、こそこそと小声で呼ぶ声に、本来自分がここへ出向いた真の意味をばっちり思い出した麻弥は、目の前の二人に対する興味を瞬時に忘れ、声のする茂みへとうきうきと近寄っていく。
 「探したよ〜♪…うん??弦月?どうしたの??そんなトコでこそこそ…」
 「ちょい、ゴメンっ」
 茂みを覗き込んで誰何する麻弥に断りを入れるだけ入れると、手を掴んで、ぐいっと引き寄せる。
 「うひゃぁ?」
 軽々と持ち上げられた麻弥は、数秒後には劉の腕の中にちんまりとおさまって、一緒に茂みの中に身を潜めることとなっていた。
 「ねー、どうしたの??」
 「あ、いやちょっとな…じーちゃん、アネキの捕獲、無事終了や!!遠慮なくやったってーッ」
 「おうよ、ま…黙って見てな」
 「え?おじーちゃん……???」
 身体を拘束されているぶん、頭だけを懸命に動かして姿を探そうとするものの、視界の中に道心は居ない。
 「??あれ???…声、だけ…?」
 ね、おじーちゃんは?と、聞こうとしたその時。
 パキィンッッと鋭い音が耳を刺す。その音がしたと同時に身体の拘束も緩んだため、麻弥は音のした方向…先ほどまで自分もいたその辺りを見る。すると…

 「どうだ?ユエ」
 「お〜!!!ばっちりや、じーちゃんッッ!!」
 美里と比良坂を中心に直径7メートル、高さ5メートル程度の半球形の結界(ちなみに色は不透明度80%程度)が張り巡らされていた。

 しかし、渦中の二人はお互いがどう出るかにのみ全神経を集中させているために全く気づいていない。

 『バカか?お前ら』(BY:道心)
 『いや、バカでええんやと思うで、じーちゃん』
 何故か心の声で交信する二人。いやー、不思議不思議。

 「どうして?どうして??あの二人、何か悪いコトしたの??」
 いや、まだしてないけど。でもたぶんきっと必ず絶対なにかしでかす。
 「んー、っていうかなーえっと…」
 …とは思うものの、はっきりと口には出せないヘンなトコロで遠慮深げな劉。
 「むう…悪いコトしてないのに結界の中に入れちゃダメなんだよって、翡翠言ってた」
 「…聞くけど、その時如月はん、何しとった?」
 「えとね、モノ壊した京一を閉じ込めてた」
 「………」
 「だからね、悪いコトしてない葵ちゃんと紗夜ちゃんは、閉じ込めちゃいけないの」
 「………(なんか、くらくらするわ…ホンマに、よってたかってアネキをいいように”かすたまいず”して…)」
 お子様黄龍の言いはることに反論できない悲しいサガを持つ劉にはこれが限度かと、深々と溜息をつく道心が、よっこらせと重い腰を上げる。
 今まで結界の中に隠れていたその身体を外側に引きずり出すことによって、ようやく姿が見えた。
 「緋勇」
 「なあに?おじーちゃんッ」
 くりくりとした目が、ようやく相手を見つけた喜びで輝いている。
 「今までおれがやってきたことで、間違ってたことはあるか?」
 問われて、んー…っと考え込む麻弥。
 「ねえだろが?」
 「う〜……うんッ」
 念押しをされて、一気に思考がそういう風にまとめられてしまい、素直に納得して頷く。
 「そういうことだ。今回も、黙って見てりゃいいのよ」
 「…そっか、そういうことなんだね。うん、おじーちゃんはいっつもイイコトしてるんだもんね!」
 
「何で、そないにあっさり納得するん…??」
 まだまだ黄龍の扱いに関しては、ひよっこな劉のか細いツッコミは本人に届くわけは無かったとか何とか。

 「ま、おれの寝床で五月蝿くされちゃかなわん」
 「うんうん。睡眠は大事だもんね」
 「公園の木々も大事にせなあかんしな〜」
 「うんッ!……??ね、弦月もおじーちゃんも、どうしてそんなコトを今言うの?」
 「”今”だからだに決まってるだろうが」
 「”今”やからに決まっとるやん」
 間髪入れない異口同音の見事なハモり。

 そして数秒後。

 「…ジハード!!!」
 「♪〜!!!!!!!!」

 結界の中、くぐもった轟音が中央公園を軽くお騒がせしたのだった。

 わかる人にはすぐわかると思うのだが、狭い空間で巨大な質量の爆発が起こるとどうなるのか…。

 ……それでも死にはしないのがあの二人。

 「くッ……やるわね…でも…負けを認めたわけじゃあないわよ…???」
 品行方性が聞いてあきれて溜息をつくような物言いの元生徒会長。
 「うふふ……今日のは一段とキレがありましたね……こんなものじゃ、やられませんけど…」
 儚げで守ってあげたくなるというイメージが裸足で逃げ出すような言い草の看護婦見習。

 地面とオトモダチなほうほうの体のくせに、口だけはやたらと達者である。
 ぴすぴすとか焦げる音もするのに。さすが喋りで発動する《力》の持ち主の二人である。

 結界の辺りは地面が陥没していたりもするが、雨が降るかして多量の水が流れれば多少はマシになるだろう。
 「ということですから。如月さん、宜しくお願いします」
 ナニが『ということ』なのだろう?とは、今最も気にする問題ではないので割愛。
 「……一緒に流しても良いのかい?」
 一応、といった感じで、おざなりに二人の処置に関しての確認を取る様子からして…こちらもその問題に関しては突っ込む気は毛頭無いらしいし。
 「僕は構いませんよ(目障りですしね)」
 そりゃあんたは構わないでしょうよ。壬生はきっぱりあっさり自分の意見を述べると、さあやってくださいと形の良い顎で対象を指し示す。

 「では……参るッッ!!!!」

 たった一人の了承を得ただけで行動を起こせる如月さん。でも作者には愛の人なので問題無し。
 え?ちなみにこの人たちドコに居たのか、って??

 まあ、忍びとアサシンですから。そこのところはごにょごにょ。

 いきなりどこからとも無く沸き出でた水の奔流に、驚きで目を丸くする麻弥。
 「あー!!弦月、おじーちゃん!!!二人とも流されちゃうよ?!?!ね、どうしよう…!?」
 そして、その水の流れに二人が飲み込まれていることに気づき、慌てて横に助けを求めたはいいが。
 「お〜、相変わらず見事な流しっぷりだな」
 「気持ちええわ〜」

 このまま流されて帰ってこんかったらもっとええのに。

 にこやかな笑顔の裏にあくどい感情を忍ばせつつ、手を叩いて目の前の現状を祝う劉(と爺)しか居なかった。

 「………弦月とおじーちゃんの、バカぁぁぁぁ〜ッッッッッッッ!!!!!!!!!」

 人でなし〜!!とか喚きつつ黄金の龍が天に昇った。

 ちゅど〜んッッと表現するのが一番良さげな効果音と共に、二人の男が空を舞い、次の瞬間落下。

 「もー弦月たちなんて、知らないッッ!!今日は帰るッ」
 「ひ…酷いわ…アネキ…ぐほッ……こんな状態のワイらほっといて行くやなんてッ!!」
 「自分のせいでしょー?!?!ふんだッ」
 今日は、翡翠か、にー様のところに行くもんッ!!と盛大に言い置いて、怒り心頭のお姫サマはとことこと立ち去っていった。
 置いていかれてかなり哀しいものがあるが、怒った顔もかわええなあ…とか思ってしまっているあたり、ある意味最も救えない男。

 「とりあえず、なんでもない風を装って物陰から登場してみますか?」
 といいつつ、物陰に潜んでいたりする壬生と如月。こっちはどうしようもなく救えない。

 死蝋の日記。

 それは

 周囲に不幸を呼ぶアイテムだったのかもしれない……。

 「流石ですね、あんな惨状を目にしても鑑定してしまうなんて…」
 「フ…」
 誉めるほうも褒められるほうもちょっとどうにかしてるんじゃないかなと思うが、如月さんは(以下略)。
 「ですが…燃やされたことで、幸福を呼ぶアイテムに変わったのかもしれませんね?」
 「かもしれないな」
 そう言って微笑みを浮かべる二人の眼前には、嬉しげに笑顔を振りまく麻弥が幸せそうにゴハンを食べていたりした。

 燃え尽きる前に関わってしまった人間は、村雨をも上回る強運の持ち主たる黄龍のお姫サマ以外、見事に全滅。

 死してなおこの世に災いを残すアイテムを世に残した死蝋影司に麦茶で乾杯。うわ、貧相。


やっと出来た…。ゴメン、リクは「麻弥ちゃんをストーキングする変態死蝋」だったはずなのに。あれぇ?しかもリク受け付けたのっていつよ、自分。

如月さんと壬生君が出てくるのはもはや作者の愛以外のナニモノでもないので、そこのところは気にしないでください。(必死)
でもって、最後が麦茶なのは書いた時期が夏だからに他なりません。冬だったらミルクティーにでもなったでしょう。(何か違)


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