(絶対的注意事項)時代考証なぞは、この際気にしてはいけません。パラレルです、このお話は。 ―如月家―
「翡翠ッ、おはよう…」
柔らかな唇が、優しく頬に触れる。
「…おはよう。今日も可愛らしいね」
はにかむ妻の唇を、そっと指でなぞる。そして、その手を麻弥の頬に添えて、自分のほうへ引き寄せる。
「……麻弥…」
お互いの唇が触れ合おうとしたまさにその時。
すっと、二人の寝室の襖が開けられ、必要無いほどに後光を射させながら、二人が顔を覗かせた。
「おはよう、麻弥、それに如月君」
「おはよう、麻弥。ああ、おはようございます、如月さん」
おまけのように、自分の名前(しかも苗字)を呼ぶことについては、もう慣れてしまっているのでこの際言い争う気にもならない。(それも癪だが、)しかしだ。
「…おはようございます、義母さん、義兄さん。……もうすぐそちらに行こうと思っていたのに、毎朝毎朝わざわざ部屋に顔を出してくださって、本当にすまないと思っています」
十分に不機嫌さを含ませてはいるのだが、
「うふふふふふふふふふふふ。遠慮しなくてもいいのよ。こちらは親切でしていることだもの…」
「…フッ、そうですよ……。決してお二人の邪魔をしているわけではないですからね……」
二人の鉄壁の笑みは、それを見事に跳ね返す。…こういう会話を、ほぼ毎日繰り返すのも、最早日常の。
「おはよう、お母様、にー様ッ。…もうちょっと待っててね、すぐ居間に行くから」
邪気の塊とも言うべき二人の笑みに対して、無邪気な笑顔で退室を促す麻弥。
はっきり言って、義理の息子(弟)に何を言われようが、一切取り合わない二人だが、可愛い麻弥の言う事なら別だ。最重要事項として、何よりも優先されうるべき事なのである。
「ええ、分かったわ、麻弥。…早く来てね?マリィが待ってるわよ」
「すぐに、僕の作った朝御飯を用意するから、ね?」
麻弥の心をくすぐることを”しっかりと”言い置いて、襖の向こうにようやく消えた。態度変わりすぎ。
「………はぁ…」
髪を掻き揚げつつ、そっと溜息を漏らす如月翡翠。
「…ゴメンね、翡翠…。ボクが、わがまま言ったから……」
「……麻弥。僕は…君とこうして結婚することが出来たのだから、何も辛いことなど無いんだよ」
目を伏せて沈む麻弥の頬に、そっと手を添えて、その顔をあげさせる。
「ん…」
目の前の優しい、穏やかな微笑みに、麻弥はすぐに優しく笑い返した。
「それじゃあ、そろそろ支度しないとね?」
「パパ、ママ!!オハヨウッ」
蒼い瞳が、嬉しそうに輝く。その金髪を揺らして、マリィが二人の元へ擦り寄ってくる。
「ああ、おはよう」
「おはよう、マリィ」
軽い抱擁をしあって、その頬に優しくキスをする。毎日行われる、優しい営み。
―そう、これだけが続くと思っていたんだけどね…?
今朝見た夢の話で盛り上がる麻弥とマリィを、愛しそうに眺めながら、先に食事の席につく。と、それを見計らったように、間髪いれずに耳元に流れ込む密やかな声。
「……遅かったわね、如月君?家族の団欒を、遅らせないでほしいのだけれど…」
やんわりとした口調だが、目が笑っていない。冷めきって、むしろ凍っていそうだ。
「…僕の作った朝御飯も、もう少し遅かったら冷めてしまうところでしたよ…?如月さん」
だから、何故僕に言う。何故、自分を名指しなのか。理由は分かりきっているので、頭の中でとっとと処理する若旦那。真面目に相手をしていたら、誰かのように胃に穴があく(誰ですか?)。そんなばかばかしい真似をするなら、アッサリとあしらってやればいい。
「心外ですね、お二人とも、何か誤解をなさっていませんか?ただ単に、起きてすぐの姿で、お二人の前に出るのは躊躇われますからね…きちんと身支度させていただいただけですよ…」
何をいけしゃあしゃあと。とでも言いたげな絶対零度の冷たい視線が向けられるが、フッと笑って軽く流す。さすが忍者だ(違)。
「……み、みぅ……」
か細い、何かに怯えるような鳴き声が、部屋の隅からあがる。そこには、黒い縞の入った白い生き物。怯える”彼”を慰めるかのように、”彼”より一回り小さい黒猫が、すりすりと身体を寄せる。
「ダイゴ、どうしたのカナ?ママ」
「…うーん、ゴメンね、ママにもわかんない…。あ、寂しいのかも。ほら、マリィ達、まだ挨拶してないでしょ?」
しばらく悩んだ後、思いついたように導き出された答えを述べる麻弥。それに納得したのか、マリィが近寄っていく。もちろん麻弥も一緒に。
それを黙って見ている残りの三人。そのうち二人は、冷ややかな目線で、醍醐と呼ばれた生き物―白虎を見遣る。その視線を感じ、いっそう身体をちぢこませて、震えだす醍醐。
二人を見ている若旦那の胸のうちに、溜息が溜まる。
―ここの雰囲気に怯えているんだよ、マリィ、麻弥…。彼の気持ちは、僕には良くわかる……。
自分だって、怯えさせる原因を作っていることは、すっかり棚に上げている。その証拠に、”まあ、醍醐君が怯えているのはしょうがないな”と片付け(オイ)、若旦那は食卓に向き直る。
と、壬生がスッと立ち上がり、台所へと消えた。
「さ、麻弥、マリィ、メフィストと醍醐のエサだよ。これを上げたら、手を洗ってこっちへおいで」
先ほどまでの冷たい表情は何処へやら。壬生が、マリィの手で名前の書かれた二つの餌入れを持って、醍醐とメフィストを撫でて微笑んでいる麻弥たちへと近づく。あらかじめ用意しているにも関わらず、わざわざ麻弥に手渡すあたりが作為的だ(注:如月視点)。
悔しいが、はっきり言って台所はすっかり壬生の管轄下だ。そこから出されるものは、全て壬生の手を介していると言っても過言ではない。
故に、こういう場合は、流石の若旦那でも何もすることは出来ず、苦い想いをするしかない。
―何より腹立たしいのは、上手いものしか作らないということだッ。…これについては、文句のつけようがない。
それって、喜ばしいことじゃないか、若旦那…。世の中には、台所事情に涙している人もいるんだぞ?
「うふふ、私たちの朝御飯も、早くね?」
「ええ、わかっていますよ、母さん。すぐに用意しますから」
餌を渡して帰ってきたところに、催促の声がかかる。しかし、壬生は麻弥にむけるものより劣りはするものの、笑みを浮かべた顔で対応し、そのまま台所へとまた消えた。台所に入った瞬間、チッと舌打ちをしたのは、壬生本人しか知らない。
―そうだな、この女に比べたら、壬生はまだましだ…。この女は、何もしないくせに、ねちねちと……ッッッ!!!!!
顔はあくまでポーカーフェイスであるものの、その内は煮えたぎった思いが渦巻いている若旦那。腹立たしい言動は数知れずあるものの、壬生は、居候の立場として、申し分のない働きをしているといえば十分している。毎日毎日上手いものがただで食べれるのだから。
―そう、ただは非情に美味しい。(商売人根性丸出しです、若旦那)だがしかしだ。この美里葵という姑は、何をしている??何もしていないではないか。現役教師として働いているのだったら、職場恋愛でもしてさっさと再婚して出て行けというものだ。忌々しい。
「……うふふ、どうかしたの?如月君…?うふふふふ…」
口に出してはいないし、顔に出したわけでもない。以上に鋭いのが、この美里葵の注意すべき点である。
「いえ、何も。お義母さんも、お手伝いされてはいかがですか?手持ち無沙汰でしょう?」
きっぱりと否定した後、オブラートで包む努力も惜しいとばかりに、思ったことを、そのまま言い放つ若旦那。
「あら、それは貴方も私も同じでしょう?それに、台所はあの子の管轄だもの。うかつに入れないわ。うふふ」
これまた手厳しい返事を笑顔と共に送り返す。
しかしですね、美里さん。うかつに入れないって…罠でも仕掛けてあるんですか?台所。壬生なら納得出来るのが怖い。
「失礼な物言いですね…。僕は、『店の事が大変でしょう?家の事は僕らに任せておいて下さい』と、彼に直々に言われているんですよ」
「あら…私だって、学校の教師をしているのよ?…とても大変な仕事なのだもの、紅葉もきっとわかってくれているわ」
「…大変なんですか…」
それは以外だと言わんばかりに、眉をあげて見せる若旦那。
「ええ、大変よ。だって、相手はもう高校生ですもの…。いろいろと問題を抱えている子も多いわ」
「おや、貴方のクラス”にも”問題児はいるんですか?」
「…幸いなことに、私のクラスはいたって平穏よ。運が良かったのね」
「運が良かった…ですか。生徒たちのほうは、もしかするとすごい運を持ってしまったと、むしろ後悔しているかもしれませんね(にっこり)」
「ええ、そうね(微笑)」
もはや、醍醐は餌を食べるのすら忘れて、固まっていたりするのは言わずもがなである。…いつか動物病院へ入院するはめになるかもしれない…もちろん、ストレスで。
そんな中、美味しそうな匂いをさせて、壬生再登場。一気に場が和やかになる。何故なら、麻弥とマリィが殺伐としていた食卓付近へと、朝御飯を食べるべく来たからだ。
「ね、にー様。もう食べていい??」
「ああ、この一皿で終わりだよ。…さぁ、どうぞ」
うずうずしている麻弥に、優しく許可が下りると、それを合図に、皆一様に手を合わせる。
『いただきます』
以上が、ほぼ毎日の如月家の朝である。なんと言うかこれが毎日繰り広げられているのかと思うと、ものすごく嫌な気もしなくはないのだが、別に作者には関係は無いと言ってしまえばそれまでなので、あまり深くは気にしないコトにする。
「――――――っていう夢を見たんだッ」
「…さ、さよか……えらいりありてぃーのある夢やなァ……はは」
だらだらだら。背中をイヤな具合に汗が流れていく。許されるなら、今すぐ某亀忍者を葬り去りたいとか、そういう思いもあるにはあるのだが…それ以上に、夢のあまりのリアリティーさに寒気がしていたり。
「そう?…翡翠たち、普段はあんなじゃないよ?…でも、何で弦月や、京一は出て来なかったんだろうね??」
「そ、そやなァ、あ、ああ、それは、アレや!…毎日一緒に居るからやと思うわ」
苦し紛れの回答でお茶を濁す劉。
「んー…そっかなァ?」
「そ、そうだってッ、な?劉!!」
「京一はんも、そう言うとるしー。間違いないてッッッ」
必死に口裏をあわす京一と劉。その心中に渦巻いていた想いは―
京一:んな怖い夢の中、居たくねぇよッッッッッッッッ!!!!!!!!!あいつら……夢の中にまで……。裏密か御門のヤローに頼みやがったのか…??あ、いや…あいつらなら、素でいけそうだな。
劉:アネキ、だまされとるー!!!!!!!!!!如月はんや美里はんや壬生はんは、そーゆーお人柄が本性なんやぁぁあああ〜(涙)わいを出さんかったんは、わいが邪魔やからなんやッッッ
―…一緒ではなかった。微妙な感じで、素敵に違っている。
「ね、弦月。そろそろ…日本に戻っておいでって、そういう意味なのかな……?」
あいも変わらず、純粋で、天然な小娘っぷりを発揮する麻弥。内心冷や汗だらだらな恋人:劉 弦月の心中など何のそので、かなり答えに苦しむであろう質問を、何の気なしに投げかける。
問われた方は、かなり苦悩の渦に飲み込まれつつあった。ああ、川の流れのやうに。
「…そやねー、わいは、こっちは元気にやっとうでって、むしろそういうメッセージやと思うわッ。で、そういうみんなが元気すぎる夢ん中に、アネキも招待されたんとちゃう?…せやから、アネキはまだ中国に居ってええんやって」
かなりムリがあるぞ。なんとなく視線で訴える京一。それを笑顔で却下する劉。このまま麻弥を丸め込みたいらしい。その気持ちが、痛いほどに伝わってきた京一は、そっと席を立とうとしたのだが、
ガスッッッ。
「………………ッッッッッッいッてぇぇぇええぇぇぇっぇ〜ッッッ!!!!!!!!!!!!!!!」
丁度立ち上がろうとした京一の後頭部に、何かが突き刺さり、あまりの痛さに、その目尻には涙まで浮かんでいる。
「な、何が起こったっちゅうんや……って…これは、どう見ても…なァ…、アネキ」
倒れゆく京一の後頭部から離れて、目の前にちょこんと佇むものを、凝視しつつ、同意を求めてみる。
「…うん、小鳥……だよね?」
「けど、こないな鳥……ここらでは見かけたこと無いやろッていうか、な〜んか、小鳥にしては雰囲気おかしいッちゅうか…」
―……禍禍しいッちゅうか。
どうにもよく知る気を感じるような感じないような、と言う微妙さに、口篭もる劉。口に出してはいけないような気がするのだ。
駄菓子菓子。
「…葵??」
―言ってもーたーッッッッッ!!!!!!!!!!!!!(背景はベタフラあたりがよろしいかと)
「な、何言うとんねん、アネキッ。こないに愛くるしい小鳥が美里はんなわけあら」
へん、と言おうとしたのだが。
(…お黙りなさい、エセ関西人)
菩薩の一睨みと言うか小鳥の一睨みに、あえなく撃沈。
「久しぶりね…麻弥。元気そうで本当に良かったわ」
小鳥の口がパクパク動く(ちと気持ち悪い)のだが、声はそこからではないような気がする(だって…スピーカーで再生してるが如く、でかくはっきりくっきり耳に入る音量)。
「ねえ、何で小鳥になってるの??」
しかし、そこは我らが黄龍。全くもって気にしない。というより、気付いていないんだろうな、この子は。
「…うふふ、小鳥になっているわけではないのよ。それに、この小鳥は式神よ」
麻弥に話し掛けられたのが、そんなに嬉しいのか(いや、実際そうとう嬉しいんだろうけど)声のトーンがぐっっっっと柔らかくなった(当社比)。
「……式神っちゅーコトは、御門はんかいな…?」
「ええ、お願いしたら、快く承知してくれたのよ」
一体どんなお願いの仕方をしたのか。そっと日本の地に住む彼の人の心中を察して、胸がいっぱいになる劉と京一。便利なものを持っているというコトは、それだけ危険がいっぱい☆というコトなんだねッ。(まじんマメ知識)
「って、京一はん、復活しとったんかいな」
「あのな〜」
先ほどの痛みもあるため、京一は元気なく突っ込んだ。しかし、つっこめるだけ、体力回復するとは、さすが京一。伊達に小蒔に殴られて鍛えられたわけじゃないね。
って、それ何年前の話やねん、作者。
「オイ、劉…?」
「ッッッは!!!!!!!い、今、わい……ッ…どこぞの誰かに、ツッコミ入れとった……誰やぁあぁッッ!?!?わいのこの関西人ツッコミ魂に火ィ点けるような解説しくさったんわッッッッッッッ!!!」
「……オレは、今のお前の解説にツッコミ入れてェよ」
全くだ。
と、二人が意味のわからない漫才をしている間にも、菩薩の魔手は、確実に獲物を絡め取りつつあるんだけど。いいのか、オイ。
「ねえ、麻弥……。そろそろ、日本に戻る気は…無い?…貴方の元気な姿を、見たいのよ……」
切なげな声で、御丁寧にも、ハンカチで鼻をかむ音まで聞こえてくる。なんとなく声とあっていない所を見ると、SE(効果音)らしいが。
「…ごめんなさい、ふぇ……葵を泣かせるつもりなんて、なかったの…ぐす…っ…ゴメンね、心配かけて、ゴメンね?」
こっちは、完璧に騙されて、自分が泣いてるし。
ごす。
なんだか鈍い音が、相手方からしたかと思うと。
「…やあ、麻弥。元気だったかい…??君の居ないお茶の間は、とても寂しいよ」
「ひすい?うわぁ、翡翠だぁ…ね、元気にしてた??招き猫ちゃん、今日もぴかぴか?」
泣き顔から一転して、ぱぁっと顔が嬉しそうに綻ぶ。負けたな、菩薩。しかし、茶の間ってあんた…。
「臥せっていたとしても、麻弥の声を聞いたら、すぐに元気になるよ。…それから、招き猫は、きちんと毎日丁寧に磨いて、大切に飾ってあるから、心配しなくてもいい…フ」
最後の笑いが、最高にわけわからんが。は、もしや!!さっきのごすって音は…猫で菩薩をヤった音ですか。
「今も、僕の膝の上で、にこやかに笑っているよ…」
「うんッ」
(やっぱり、さっきの音は…)しかし、ここでも我らが黄龍。如月が、自分が日本に居た頃から変わっていないことを知って、とても嬉しそうに返事をする。(作者心の声:…変わってないよね、良くも悪くも。)
「ねぇ、麻弥?」
「なぁに?」
「フ…早く君の元気な姿を見たい…だから……」
幸せそうな顔で、熱っぽく語ろうとしていた如月は、背後にそっと忍び寄っていた影に、気付くのが一瞬だけ遅れてしまった。不覚。いや、失格か。
勘の良い読者様なら、お分かりだろう。美里、如月とくれば…
「(ぎゅむ)…ちょっと、どいてくださいね、如月さん……っと。やあ、麻弥…君の声を聞いたら、居てもたっても居られなくてね…そんな僕の様子を見かねて、如月さんが、早々に僕に代わってくれたよ」
壬生の足元には、畳に突っ伏す若旦那。しかし、麻弥にさえ見えていなければ、何の問題も無い。
「にー様!!!!」
目の前に居たら、抱きつかんばかりの勢いだ。もし犬だったら、しっぽを振っているのではないかというくらいに。
「あのね、こっちってね、すごくいっぱいいろんなお料理があるの!でもね、やっぱりにー様のご飯が一番美味しいよッ」
「嬉しいよ…いつも頑張っていたかいがあったというものだね(無敵スマイル)」
麻弥には見えてないってばよ。まあ、ひどく優しくて甘い声なら、十分すぎるほど届いてるが。
ざばー。(注:砂を吐く音)
「…?え!?弦月、京一、どうしたの??」
「壬生の野郎に聞いてくれ…うげぇ、気持ち悪…」
口を抑えたかと思うと、慌てて茂みに突進する京一。
「(……アネキ…あないな台詞、いっつも言われとるんか……?)わい、わい…もしかせんでも、うっかりさんやぁぁぁぁぁ〜ッッッ!!!!!」
その場で、泣き崩れてるし。そりゃそうかな。自分の彼女の傍近くに、危険人物放置してたんだから。
「弦月??どうしたの?」
大事な大事な恋人が、肩を震わせてるのだから、当然にー様は放置(…)して、そちらへ駆け寄る。
「……ええんや…わいのことなんか…。アネキは、楽しくお話しといてや……(涙)」
「ダメッ」
「…は?」
「……ボクの一番は、弦月だもん。だから、弦月が大切なんだよ?……おとーさんとおかーさんの前でも、ボク…そういったよ?」
「せやけど…」
なんだってぇ?!?!?!?!(美里&如月&壬生)
「な、なんて言ったの、今っッッ!!!!!」
「誰と誰の前で!!」
「ナニを言ったんだ?!?!?!?!」
とにかく話をしよう、と、どこぞの青春ドラマの大人の如く喚く声と、邪魔だどけとか言うもみ合う音がするが。
「貴方がたは、バカですね…(くす)
……バカップルに聞こえるわけないじゃないですか……?」
「…お?御門か??声、疲れきってんぞ……大丈夫か?」
これまた疲れきった顔で、茂みから出てきた京一は、ぎゃーぎゃーと喚く喧騒の中にも、聞きなれた懐かしい声をバッチリ捉えて、相手に労いの言葉をかけた。…いや、どうして疲れてるのかというのは、聞かなくてもわかる。
「フ……お久しぶりです、蓬莱寺さん。…私の力が至らぬばかりに、麻弥さん達に迷惑をかけてしまいましたね……」
いつもの尊大な態度は、どこぞへ消えたのか。今にも倒れそうな儚げな雰囲気が伺える。
「……いや、お前の方こそ、大変だったな…」
「いえ…私は、そろそろ開放されると思いますよ……。もう、体力が…持ちませんので」
「ってーことは、アレか?この式神…もーダメってヤツ?」
「そういうことです…。大体、いきなり押しかけてきたと思ったら、無茶な注文を押し付けるんですからね…。十分に準備をしていたならともかく、即席で、こんな長距離でも扱える式を呼び出させないでほしいものです」
「…でもよ?お前なら、なんてコトなさげに見えるんだけどなぁ?」
すると、かなり自嘲めいた含み笑いが、くぐもって聞こえた。おそらく、あの頃と変わりなく、扇で口元を隠しているのだろう。
「……ど、どうしたんだ…??」
「………ていないのですよ」
大仰な溜息とともに吐き出された理由は、小声だったため上手く聞き取れない。京一がリアクションを返さないのに気付いて、御門は軽く息を吸い込んだ。
「寝ていないのですよ、ここ数日!!!!…この私が、やっと終わらせられるほどの仕事を、ようやく…そう、ようやく終わらせて、床に入ろうと思ったところを、強引に連れてこられたのですよ………【怒+怨】」
「…そりゃぁ、大変だったな……。よくお前の身体が持ったもんだ」
遠く海を隔てた地にいる友人には、手が届かない為。京一は、式神の頭を、相手の肩だと思ってぽんっと優しく叩いたのであった…。
暫しの間、しみじみとしていた御門であったが、京一に促されて、今だ揉みあう三人へと、通告をした。
「あと五分で、式は消えますので。…私は、帰らせて頂きますよ……では」
ぱちん、と扇を鳴らす音にあわせて、スッと襖が開く。おそらく、ずっと待っていたのであろう芙蓉が、疲労困憊といった風体の主を見て、軽く眉をひそめる。
「芙蓉…帰りますよ」
「…御意。晴明様、どうぞ私に掴まって下さい」
三人が言われたことを頭で処理する前にと、芙蓉は急いで主を連れて如月邸を抜け出したのであった。
そして。
「…?今、御門君が何か言わなかったかしら……??」
「……僕の空耳、というわけではなかったようだね……」
「”5分”がどうとか言っていましたが………?」
残された元凶極悪三人組は、ようやっと争いを止めると、暫し考え込む。
『もしもーし、お前ら、聞こえてるんだろー?』
「…京一君?何かしら……」
と、そこへ、大陸側から呼びかける声がしたため、かなり面倒くさそうに菩薩が答えてやる。
『今、御門が言ってたことの意味、教えてやろーと思ってな』
京一は、ここで言葉を切ると、にやり、と実に楽しそうに笑った。もちろん、日本側には見えてはいない。
『……是非、聞かせてほしいものだね…』
『早く言いなよ、蓬莱寺君』
イライラとした声が返ってきたのに、さらに京一の笑みがにんまりとしたものになった。
「なあに…たいしたコトじゃねェよ。…さっきの御門が言ってたのはな?この式神が消えるまでの時間だ」
「なに――――――――――――――――!?!?!?!?!?!」
しまったと振り向く3人。しかし時すでに遅すぎ。御門は、しっかりトンズラこいている。
こうなったら、ぜひとも最後の一言をと、またもや揉め始める3人。
と、そこへ、嫌にクリアな、バカップルの声が聞こえてきた。
「―…何度も言うけど、ね?おとーさんとおかーさんの墓前で、ちゃんと約束したでしょ?」
なにを。水を打ったように、茶の間は静まり返った。固唾を飲んで、会話に耳をそばだてる。
「せやな、ごめんな?…お互いに、一番大切な人やから、相手を一番大事にしますて、ちゃんと言うたもんな…」
なんだって?一連の会話に、あるカタカナの単語が、頭の中をぐるぐると回っている三人。
「ボクを、一生放さないでよね?約束破ったら、秘拳・黄龍だよ?」
さり気に恐ろしいコト言うね、麻弥ちゃん。しかし、劉は気にしていない。
「あったり前やんッ!!!一生、わいと一緒におるんやろ?」
必要以上に言い張ると、きゅーっと力一杯抱きしめてるし。
「えへへッ」
茶の間の三人が叫ぼうかとしたその瞬間。
式神の小鳥は、京一の掌から、ぽんっと言う可愛らしい音とともに、跡形もなく消え去ったのであった。そう、京一は、ご丁寧にも、式神を劉と麻弥のところへと近づけ、痒くなるような台詞に耐えてまでも、自分もそこに居たのだ。
式神だけ置き去りにしとけば良かったじゃんとか言わないように。所詮、京一もデバガメだ。
日本。
暖かな春のうららかな日差しの中、如月邸の縁側で三人は固まっていた。ここだけ季節はまるで極寒の南極。
そして一方、こちらは浜離宮。春眠暁を覚えずとは言うが、まさに珍しく”爆睡”という状態で眠りこける御門。その寝顔は、とても安らかだったと、目撃した薫は、後日、村雨に嬉しそうに聞かせたとか。
やっと終わりましたね☆…長い、長すぎる。またまた駄ギャグですー(汗)…今思ったのですが、二人と一緒に旅をしている京一は、かなり肩身が狭いのではとかなんとか。
|